・・・が、何処の巣にいて覚えたろう、鵯、駒鳥、あの辺にはよくいる頬白、何でも囀る……ほうほけきょ、ほけきょ、ほけきょ、明かに鶯の声を鳴いた。目白鳥としては駄鳥かどうかは知らないが、私には大の、ご秘蔵――長屋の破軒に、水を飲ませて、芋で飼ったのだか・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・袋から、血だらけな頬白を、――そういって、今度は銃を横へ向けて撃鉄をガチンと掛けるんだ。(麁葉――貰いものじゃあるが葉巻を出すと、目を見据えて、(贅沢またそういって、撃鉄をカチッと行る。 貰いものの葉巻を吹かすより、霰弾で鳥をばらす方が・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・庭つづきになった後方の丘陵は、一面の蜜柑畠で、その先の山地に茂った松林や、竹藪の中には、終日鶯と頬白とが囀っていた。初め一月ばかりの間は、一日に二、三時間しか散歩することを許されていなかったので、わたくしはあまり町の方へは行かず、大抵この岡・・・ 永井荷風 「十六、七のころ」
・・・赤が吠える声は忽ちに遠くなって畢う。頬白が桑の枝から枝を渡って懶げに飛ぶのを見ると赤は又立ちあがって吠える。桑畑から田から堀の岸を頬白が向の岸へ飛んでなくなるまでは吠える。そうして赤は主人を見失うのである。そういう時には尻尾を脚の間へ曲げこ・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・また、藪の中の黄楊の木の胯に頬白の巣があって、幾つそこに縞の入った卵があるとか、合歓の花の咲く川端の窪んだ穴に、何寸ほどの鯰と鰻がいるとか、どこの桑の実には蟻がたかってどこの実よりも甘味いとか、どこの藪の幾本目の竹の節と、またそこから幾本目・・・ 横光利一 「洋灯」
出典:青空文庫