・・・という、題名からして、お前の度胆を抜くような本が、出版された。 忘れもせぬ、……お前も忘れてはおるまい、……青いクロース背に黒文字で書名を入れた百四十八頁の、一頁ごとに誤植が二つ三つあるという薄っぺらい、薄汚い本で、……本当のこともいく・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・酒についての追憶、もしくは、酒についての追憶ならびに、その追憶を中心にしたもろもろの過去の私の生活形態についての追憶、とでもいったような意味なのであるが、それでは、題名として長すぎるし、また、ことさらに奇をてらったキザなもののような感じの題・・・ 太宰治 「酒の追憶」
はしがき もの思う葦という題名にて、日本浪曼派の機関雑誌におよそ一箇年ほどつづけて書かせてもらおうと思いたったのには、次のような理由がある。「生きて居ようと思ったから。」私は生業につとめなければいけないではないか。簡単な理由・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・作品の題名にも現れている作者の体勢が、人々をその内容に向っての興味、期待にひきつけたのであったと思う。生活の在りように対する関心では、この作品と読者の良心とが同一面に顔を合わせているかのようであって実は決してそうでないものが、「生活の探求」・・・ 宮本百合子 「生産文学の問題」
・・・謂わばこちたき題名で、そこに著者が肩書つきであらわれていれば、随分と取締の立場も感じられる題の一つである。それにもかかわらず人々はその題を見てすぐ日常自分たちと混ってそこら辺にいる生身の好もしく又好もしからざる青年たちとしての学生を感じ、彼・・・ 宮本百合子 「生態の流行」
・・・という一冊をこしらえた。一九三五年四月十八日、父の第六十八回目の誕生日に、私が父を気に入りの浜作に招き、その席で「葭の影」という題名を父が思いついた。「葭の影」のこの日の条には、こう記されている。「七月廿七日、晴。涼し。前略。交際馴れた近藤・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・というと、どうして。筆者がこの数万語で煽ろうとしている民族の対立は本能である、というにくむべき侵略主義の煽動、ソヴェト同盟についての非科学的なデマゴギー、「第二次世界戦争発端」という題名の仮面の下にたくみに満蒙事件の拡大の可能を暗示している・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・過去一年間の新日本文学会員の創作活動が、作者と作品の題名、発表誌の名だけをならべて報告されたぎりで、各作品が民主主義文学のきょうの段階にとって、どういう意義をもつものかという評価は一つも行われなかった。そのかわり、小説部会は、第三回大会に向・・・ 宮本百合子 「両輪」
・・・ 前者は、題名がこの卓抜で美しい社会の歴史の内容を語っております。後者は、人間社会に、何故貧富の差が生じたか。その社会的な不幸をなくしようとして、優れた人々がどんなに努力して来たか。そして、この人間らしい努力は、だんだん空想的な方法から・・・ 宮本百合子 「私の愛読書」
・・・同じ書は『心学五倫書』という題名のもとに無署名で刊行されていた。初めは熊沢蕃山が書いたと噂されていたが、蕃山自身はそれを否定し、古くからあったと言っている。惺窩の著と言われ始めたのは、その後である。しかるに他方には『本佐録』あるいは『天下国・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫