・・・あの人は高瀬が好きや言いますのんです」「はあ、そうですか」 絹代とは田中絹代、一夫とは長谷川一夫だとどうやらわかったが、高瀬とは高瀬なにがしかと考えていると、「貴方は誰ですの?」「高瀬です」 つい言った。「まあ」・・・ 織田作之助 「秋深き」
・・・同時に、高瀬という新教員を迎えることに成った。学年前の休みに、先生は東京から着いた高瀬をここへ案内して来た。岡の上から見ると中棚鉱泉とした旗が早や谷陰の空に飜っている。湯場の煙も薄く上りつつある。 桜井先生は高瀬を連れて、新開の崖の・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・旧友――という人は数々ある中にも、この原、乙骨、永田、それから高瀬なぞは、相川が若い時から互いに往来した親しい間柄だ。永田は遠からず帰朝すると言うし、高瀬は山の中から出て来たし、いよいよ原も家を挙げて出京するとなれば、連中は過ぐる十年間の辛・・・ 島崎藤村 「並木」
・・・法隆寺の例にむきだされた行政官僚の文化に対する無責任は、二月二十一日の読売にのった高瀬荘太郎文相の私立学校つけとどけ木戸御免説となって再現している。本来は人民の文化の富であるはずのものが、おかしな方法で処置される例は、この間アメリカへわたっ・・・ 宮本百合子 「国宝」
・・・税に苦しめられ、物価高に苦しめられ、やっと子供を教育しようと思っている母親に、今日の新聞の文相高瀬荘太郎の話はなんとひびいたでしょう。文相は、父兄からのつけとどけのない大学教授たちの生活難について語り、私立学校の入学にからむ父兄からのつけと・・・ 宮本百合子 「求め得られる幸福」
出典:青空文庫