・・・桂月香は八千の妓生のうちにも並ぶもののない麗人である。が、国を憂うる心は髪に挿したまいかいの花と共に、一日も忘れたと云うことはない。その明眸は笑っている時さえ、いつも長い睫毛のかげにもの悲しい光りをやどしている。 ある冬の夜、行長は桂月・・・ 芥川竜之介 「金将軍」
・・・どうか又後宮の麗人さえ愛するようにもして下さいますな。 どうか菽麦すら弁ぜぬ程、愚昧にして下さいますな。どうか又雲気さえ察する程、聡明にもして下さいますな。 とりわけどうか勇ましい英雄にして下さいますな。わたしは現に時とすると、攀じ・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・ 振り向いて見ると、月光を浴びて明眸皓歯、二十ばかりの麗人がにっこり笑っている。「どなたです、すみません。」とにかく、あやまった。「いやよ、」と軽く魚容の肩を打ち、「竹青をお忘れになったの?」「竹青!」 魚容は仰天して立・・・ 太宰治 「竹青」
・・・ 日本の婦人の特徴ということを国際的な文化紹介としてあげ、優雅な日本の姿を欧米に紹介するための写真外交の見本として、きょうも新聞に見えたのは、高島田に立矢の字の麗人が茶の湯の姿である。ところが、そういう画面で日本の女を紹介する習慣を・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・の実業家で、もう十四五年も妻と別居し別の家庭を営んでいる増田というひとの娘富美子が大金をもって家出をして、西条エリとあっちこっち贅沢な旅行をした後、万平ホテルで富美子が睡眠薬で自殺しかけた事は、男装の麗人という見出しで各新聞に連日報道された・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
出典:青空文庫