・・・ ペムペルとネリとは、黒人はほんとうに恐かったけれど又面白かった。四角なものも恐かったけれど、めずらしかった。そこでみんなが過ぎてから、二人は顔を見合せた。そして『ついて行こうか。』『ええ、行きましょう。』と、まるでかすれた声で・・・ 宮沢賢治 「黄いろのトマト」
・・・食堂でよく会う黒人党員がいつも一緒なロシア婦人党員と白い息をハーハーふきながら愉快この上ない顔つきで散歩している。一行はドイツ人もアメリカ人も混って、食事の時は婦人党員がドイツ語、英語、ロシア語でやっているのだ。(モスクワを立つ前、こんな事・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・ 二十日 New オルレアンス着、黒人、綿。七時発。立つとき、金を貰いに来た男が、拒まれて、何かすて科白を云う。 二十二日 メキシコ アリゾナ 二十三日 L. A. 着、あの心持 San Gabriel を見物 二・・・ 宮本百合子 「「黄銅時代」創作メモ」
・・・その政党の議員の或るものはタフト・ハートレー法を通過させ、黒人に市民権を与えることについて反対しつつあるその民主党選出の大統領となるためには、トルーマンもウォーレスが正当に主張した、人民の意志を代表する民主的綱領にいくらか近づかなければなら・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・「なんえ、これ! かわいそうな目に会わさんといとくれ、頼むぜ」「黒人の花嫁! 黒人の花嫁!」 ひろ子が笑い涙を溜めながら囃した。「こんな嫁はんあらへん――親出や、親出や」「階下へいて見せたろ」「――一寸待って、何ぞ頭・・・ 宮本百合子 「高台寺」
・・・オセロの敏感な自尊心――黒人の劣等感のうらがえされたもの――そのものと、イヤゴーのユダ的性格そのものが、性格と性格の格闘として悲劇を形成している。 現代の悲劇というより、むしろ正劇は、個々の性格間の格闘というよりも拡大されて、人間理性の・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・そして、巴里のムーラン・ルージュの黒人の踊子のジョセフィン・ベイカアを寵愛して、ジョセフィン・ベイカアと云えば、コティの白粉を知っているぐらいの日本の人は知らない者はない世界のレビューの舞姫にした。やがてコティも運命が来て死んだ。ジョセフィ・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・今度の大戦で、欧州に出征した黒人は、楽しんで還った故国に非常な失望と、憤懣とを感じて居りますでしょう。独逸人は不正な、人類、人道主義の敵であるから殺せと命じられて来た彼等は、帰って来た土地で、同様の不正と、逆徳とを発見致します。彼等の行為が・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ オセロはアフリカ生れの黒人の武将であった。勇敢な勝利者としてデスデモーナという、美しいヨーロッパの貴婦人を妻にした。ところがオセロの幕下にイヤゴーという奸物がいる。イヤゴーは単純で正直な人々の生活を、自分の奸智でかき乱して、その効果を・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ エミール・ヤニングスが映画のオセロに扮したとき、彼はそのもち味で、黒人の英雄であるオセロの直情径行の素朴な人間性とデスデモーナへの情熱の面を強調した。シェクスピアは、オセロをもうすこし複雑に生かしている。黒人英雄の官能をつき動かす濃く・・・ 宮本百合子 「デスデモーナのハンカチーフ」
出典:青空文庫