・・・であろうと思って見れば、文化主義の猫になり、杓子になりたがる彼等の心情や美への憧れというものは、まことにいじらしいくらいであり、私のように奈良の近くに住みながら、正倉院見学は御免を蒙って不貞寝の床に「ライフ」誌を持ち込んで、ジャン・ポール・・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・ああいうものを書く時分から、透谷君自身のライフも、次第に磨り減らされて行ったように見える。 透谷君がよく引っ越して歩いた事は、已に私は話した事があるから、知っている読者もあるであろうと思うが、一時高輪の東禅寺の境内を借りて住んでいた事が・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・ 最後に云って置きますが、むかし、滝沢馬琴と云う人がありまして、この人の書いたものは余り面白く無かったけれど、でも、その人のライフ・ワークらしい里見八犬伝の序文に、婦女子のねむけ醒しともなれば幸なりと書いてありました。そうして、その婦女・・・ 太宰治 「小説の面白さ」
・・・オランダ人で伝法肌といったような男がシェンケから大きな釣り針を借りて来てこれに肉片をさし、親指ほどの麻繩のさきに結びつけ、浮標にはライフブイを縛りつけて舷側から投げ込んだ。鱶はつい近くまで来てもいっこう気がつかないようなふうでゆうゆうと泳い・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・それが私のライフのスタートであった。 茲で一寸話が大戻りをするが、私も十五六歳の頃は、漢書や小説などを読んで文学というものを面白く感じ、自分もやって見ようという気がしたので、それを亡くなった兄に話して見ると、兄は文学は職業にゃならない、・・・ 夏目漱石 「処女作追懐談」
・・・――その解決が付けば、まずそのライフだけは収まりが付くんだから。で、私の身にとると「くたばッて仕舞え!」という事は、今でも有意味に響く。そこでこの心持ちが作の上にはどう現れているかと云うと、実に骨に彫り、肉を刻むという有様で、非常な苦労で殆・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・誰が投げたかライフブイが一つ飛んで来ましたけれども滑ってずうっと向うへ行ってしまいました。私は一生けん命で甲板の格子になったとこをはなして、三人それにしっかりとりつきました。どこからともなく〔約二字分空白〕番の声があがりました。たちまちみん・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・ところが、日本の私小説作家で、人生の方が文学のふち飾りでライフ・プロパアが無視されている。僕が日本の私小説作家に大いに反対するのはそこなんです」 ステファン・ツワイクは伝記文学者として多くの仕事をしたが、彼の代表作「三人の巨匠」の中でも・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ 周知のとおり通俗ニュース雑誌、『ライフ』『タイム』『フォーチューン』『アーキテクチュラル・フォラム』等の諸週刊雑誌のほかラジオ・ニュースの放送などで、今日三千万人のアメリカ人にタイム社の影響を与えている男である。 去年の彼の収入は・・・ 宮本百合子 「微妙な人間的交錯」
出典:青空文庫