出典:青空文庫
・・・卒業後は、どこへも勤めず、固く一家を守っている。イプセンを研究している。このごろ人形の家をまた読み返し、重大な発見をして、頗る興奮した。ノラが、あのとき恋をしていた。お医者のランクに恋をしていたのだ。それを発見した。弟妹たちを呼び集めて、そ・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・長兄の書棚には、ワイルド全集、イプセン全集、それから日本の戯曲家の著書が、いっぱい、つまって在りました。長兄自身も、戯曲を書いて、ときどき弟妹たちを一室に呼び集め、読んで聞かせてくれることがあって、そんな時の長兄の顔は、しんから嬉しそうに見・・・ 太宰治 「兄たち」
・・・卒業後は、どこへも勤めず、固く一家を守っている。イプセンを研究している。このごろ「人形の家」をまた読み返し、重大な発見をして、頗る興奮した。ノラが、あのとき恋をしていた。お医者のランクに恋をしていたのだ。それを発見した。弟妹たちを呼び集めて・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・ 木綿更紗の布を三角に頭へかぶった婆さんが、ハイネを知っている。イプセンを知っている。モーパッサンをも読んで貰ったし、ロシアのものなら古典の代表作と現代の主なものは知っているという結果になった。そして、いい年をした貧農出の農場員は自分で・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・が出た明治三十二年といえば、西暦一八九九年、まさにキュリー夫妻が彼らの記念すべき物理学校の粗末な実験室で辛苦協力の成果としてラジウムを発見した翌年である。イプセンの「人形の家」が書かれたのは日本の明治十一年であった。そしてモウパッサンの「女・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
・・・、不幸な妻は自分から離婚してよいことになり、その上母と暮したいと主張する三人の子をひきとって、一緒に暮さなければならないというとき、経済上自力でやってゆける自信のある妻は、いまの日本に何人あるだろう。イプセンの「ノラ」は、ノラが人形でなくな・・・ 宮本百合子 「離婚について」
・・・ イプセンの「ノラ、人形の家」はもうふるいと一部にいわれるが、そのふるくない解決へ何歩私たちは歩み出し得ているだろうか。ツルゲーネフの「処女地」「その前夜」は歴史がその解決の試みへの足どりを示している。ジイドの「女の学校、ロベル」などは・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
・・・チェホフのような態度、モウパッサンの視野、ストリンドベルク、ゲエテ、イプセン、片仮名でない名で見出せば西鶴、近松、近く夏目漱石、皆、それぞれのテムペラメントに従って、女性を愛している。或る者は、幾分当惑げな寛大さと興味深げな観察眼を以て、或・・・ 宮本百合子 「わからないこと」