出典:青空文庫
・・・彼の名はヤコフ・イリイッチと云って、身体の出来が人竝外れて大きい、容貌は謂わばカザン寺院の縁日で売る火難盗賊除けのペテロの画像見た様で、太い眉の下に上睫の一直線になった大きな眼が二つ。それに挾まれて、不規則な小亜細亜特有な鋭からぬ鼻。大きな・・・ 有島武郎 「かんかん虫」
・・・猫背の背中を真直にし、頭をふりあげ、愛想よくカザンの聖母の丸い顔を眺めながら、彼女は大きく念を入れて十字を切り、熱心に囁くのであった。「いと栄えある聖母さま、今日もあなたの恵みを与え給え。おん母さま」 地べたにつく程低くお辞儀をする・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・この注目すべき性質の対立は、ゴーリキイが十五歳になり、カザン市へ出かけて当時の急進的学生たちとの交渉が始まるにつれ、一層その社会性、歴史性に於て複雑な内容をもって深められ、発展するに至ったのである。 十五歳でもゴーリキイは既に自分を年よ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・当時のロシアをみたしていた生活の浪費の苦痛がゴーリキイの心を狩り立て、十五の年、彼は故郷ニージュニを出て、遂にカザン市へ出て来た。何とかしたら大学に入れそうに思ったのであった。 ところが、カザンで若いゴーリキイを迎えたのは、一八六一年に・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・ゴーリキイは遂にカザン市に行って、カザン大学へ入る決心をした。 ところが、行って見るとカザン市で彼を迎えたのは歴史に名高いカザン大学ではなく、着いて三日目からの飢えであった。カザン大学のどの課目にもないゴーリキイ独特の「私の大学」時代が・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
・・・このハガキはカザンから出します。 二 九月二十二日 土曜日 ヴォルガ河からスターリングラードへ十九日に上陸、それからウクライナの野を横切って、こちらで有名な温泉のあるキスロボードスク、ピヤチゴルスクに一・・・ 宮本百合子 「ロシアの旅より」