出典:青空文庫
・・・という間もなくもう赤い眼の蠍星が向うから二つの大きな鋏をゆらゆら動かし長い尾をカラカラ引いてやって来るのです。その音はしずかな天の野原中にひびきました。 大烏はもう怒ってぶるぶる顫えて今にも飛びかかりそうです。双子の星は一生けん命手まね・・・ 宮沢賢治 「双子の星」
・・・ 不自然にカラカラと清水は笑った。「扱いようの問題じゃないか。……つまりこういう風に扱うのはいけないと云うわけなんです」「だが、戦争をしたって不景気が直らず、却ってわるいというのはお互に知りぬいている事実ですよ。従って、戦争が自・・・ 宮本百合子 「刻々」
夜中の一時過、カラカラ、コロコロ吊橋を渡って行く吾妻下駄の音がした。これから女中達が髪結に出かけるのだと見える。 私共は火鉢を囲み、どてらを羽織って餅を焼きながらそれを聴いた。若々しい人声と下駄の音が次第に遠のき、やが・・・ 宮本百合子 「山峡新春」
・・・彼等は車道のすぐ傍を、同じように落付かない洋服姿の男等が膝かけなしで俥に乗り、カラカラ、カラと鈴をならして駆けさせるのを見ないふりで、速足に前へ前へと追い抜いて行く。 女は、一目で、此界隈の者が多いのを知れた。種々な種類の彼女等は、装こ・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・がては霜になろうとする霧が、泥絵具の茶と緑を混ぜて刷いたような山並みに淡く漂って、篩いかけたような細かい日差しが向うにポツネンと立っている角子の大木に絡みつき、茶色に大きい実は、莢のうちで乾いた種子をカラカラ、カラカラと風が渡る毎に侘しげに・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・ 里道の中央が高いので雨降りの水は皆両側の住居の方へ流れ下るので、家の前の、広場めいた場所の窪い所だの日光のあまり差さない様な処は、いつでも、カラカラになる事はなく、飼猫の足はいつでもこんな処で泥まびれになるのである。 小作人でも少・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ 天狗はカラカラと笑って「雑作もないことだ。註文を出せ。どんなものにでもなってやる」と云った。 そこで百姓は腰をかがめて、願ったことは、「この山のどの杉の木より大きな杉になって見せて下さい」 天狗は忽ち数丈の杉の大木となって・・・ 宮本百合子 「ブルジョア作家のファッショ化に就て」