出典:青空文庫
・・・当時ベルリンではこれを俗にキーントップと言っていた。常設館はいくつもあったがみんな小さなものでわずかの観客しか容れなかったように覚えている。邦楽座や武蔵野館のようなものはどこにもなかったようである。各地に旅行中の夜のわびしさをまぎらせるには・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・天上の方ではキーンという鋭い音が鳴っている。横の方ではごうごう水が湧いている。さあそれからあとのことならば、もう私は知らないのだ。とにかく豚のすぐよこにあの畜産の、教師が、大きな鉄槌を持ち、息をはあはあ吐きながら、少し青ざめて立っている。又・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・ おや、耳の中がキーンと云う。変ね。そろそろ寝ろとの知らせでしょう。馬のついた文鎮をのせて又この次。 今は八日の午後三時。ひどい風の音にまじって、隣家の庭で炭やが炭をひいている音がきこえます。小学校の校庭の騒ぎはまさに絶頂。風でがた・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ いきなり、子供の頬に、かたい平手が飛んで、見て居る者の耳がキーンと云うほどいやな音をたてた。 斯うして小さい人間共の争いは起って仕舞った。年上のものは力にまかせて小さいものを打ったり、突き飛ばしたり、小突いたりして、一言も声はたて・・・ 宮本百合子 「農村」