出典:青空文庫
・・・僕は頭痛のはじまることを恐れ、枕もとに本を置いたまま、○・八グラムのヴェロナアルを嚥み、とにかくぐっすり眠ることにした。 けれども僕は夢の中に或プウルを眺めていた。そこには又男女の子供たちが何人も泳いだりもぐったりしていた。僕はこのプウ・・・ 芥川竜之介 「歯車」
・・・幾ミリグラムかの毒液を飲み終ると、もう石のように動かなくなってしまった。 そこへ若いF君がやって来た。自分はF君に、この虫が再び甦ると思うか、このままに死んでしまうと思うかと聞いた。もちろん自分にも分らなかったのである。F君は二〇プロセ・・・ 寺田寅彦 「さまよえるユダヤ人の手記より」
・・・ 例えば早い話が教科書や試験問題には長さ一メートルの物差とか一グラムの分銅とかいう言葉が心配げもなく使ってあるが、実際には決して精密に一メートルとか一グラムとかいう量に出逢う機会は皆無と云ってよい。ただ必要に応じて差しつかえのない程度ま・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・鰯なら一缶がまあざっと七百疋分ですねえ、締木にかけた方は魚粕です、一キログラム六セントです、一キログラムは鰯ならまあ五百疋ですねえ、みなさん海岸へ行ってめまいをしてはいけません。また農場へ行ってめまいをしてもいけません、なぜなら、その魚粕を・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・研究所にある一グラムのラジウムを、人類と科学とのために侵略者の手から安全にしなければならないと決心したからであった。彼女の心には直覚的にささやくものがあった。「もし私がその場にいたらドイツ軍もあえて研究所を荒そうとはしないだろう。けれどもし・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
年の暮れに珍しくお砂糖の配給があった。一人前三〇グラムを主食三三グラムとひきかえに、十匁を砂糖そのものの配給として配給され、久々であまいもののある正月を迎えた。お米とひきかえではねえ、と云いながら、砂糖を主食代りに配給され・・・ 宮本百合子 「砂糖・健忘症」
・・・彼女は昼の残りの肉を ナイフでたたき乍ら――この肉上げましょうか、食べたくなる程美味しい肉ですよ 全くさ それでも三週間キャベジの煮たのだけたべてやっと百グラムの牛肉が食べられるようになったのだから、彼女はその肉も結局は食べ終る。・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」