出典:青空文庫
・・・って、ケイサツでひやかされて口惜しかったといっていました。私はそんなことを口惜しがる必要はない。早く出て来てくれてよかったといゝました。 娘が家に帰ってくると、自分たちのしている色んな仕事のことを話してきかせて、「お母さんはケイサツであ・・・ 小林多喜二 「疵」
・・・母が眼をさますと、何だかと訊いたので、「ケイサツ」と云うと、母はしばらく黙っていたが、「兄が東京で入っているんだも、モウ何ンも用事ねえでないか?」と云った。妹はそれにどう返事をしていゝか分らなかった。 母はブツ/\云いながら、それでもお・・・ 小林多喜二 「母たち」
・・・シンゲンはなんでもトウケイ四十二度二分ナンイ……。」「エヘン、エヘン。」 クねずみはまたどなりました。 タねずみはまた面くらいましたが、さっきほどではありませんでした。 クねずみはやっと気を直して言いました。「天気もよく・・・ 宮沢賢治 「クねずみ」
・・・資本ケイ統住友 第一職工だけ。女三六五人○健康ホケン費 七五、一二八・四円。一ヵ年間にこの七万五千余円がホケン組合に入る。一人当り一ヵ年二八円九四銭 第十二工場 製カン、鋳物、ガス溶接屋 二〇九名 第八工場 変圧器製造 ・・・ 宮本百合子 「工場労働者の生活について」
・・・片手でテーブルの上に出してある巡邏表のケイ紙に印を押しながら、看守に小声で何か云っている。顔の寸法も靴の寸法も長い看守は首を下げたまま、それに答えている。「ハ。一名です。……承知しました。ハ」 金モールが出て行くと、看守は物懶そうな・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ 其から又遊ぶ半年 今度の箇人のケイエイの金原デンキに入る 資本五十万円、箇人が大阪の××工業に売り 元のオヤジは専務、 専務が細君のおじの友人レジスター 電気チクオン器の部分品、タイムレコーダー等、タイムレコーダー・・・ 宮本百合子 「SISIDO」
・・・と、エーが、彼の部屋から、「お入んなさい」と云った。おや? と思うと「姉さん、いる?」とケイの声がし一緒に来た従弟達がどっとふきだした。「うまくかけられた。あやしいぞ、と思って小さくなっていたのよ」 皆あがらず、本を持って行・・・ 宮本百合子 「静かな日曜」
・・・――純白な紙、やさしい点線のケイの中に何を書かせようと希うのか深みゆく思い、快よき智の膨張私は 新らしい仕事にかかる前愉しい 心ときめく醗酵の時にある。一旦 心の扉が開いたら此上に私の創る世界が湧上ろ・・・ 宮本百合子 「初夏(一九二二年)」
中国の書簡箋というものには、いつもケイがある。けれどもなぜケイがあるかは知らなかった。白文体について作人が書いている文章が「魯迅伝」に引用されている。「古文を用いますと、空っぽで内容はなくとも、八行の書簡箋はいっぱいに埋め・・・ 宮本百合子 「書簡箋」
・・・民主主義文学における指導ということは、あの小説を読め、これこれの小説を書け、そして社会についてこう考えろとケイをひいた紙をあてがうことではないと思います。ある民主的な立場で書かれた作品を、多くの人がいきなり自分の生活で読みとってそこから何か・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」