出典:青空文庫
・・・のうちに完成だという秋の夕暮、局の仕事もすんで、銭湯へ行き、お湯にあたたまりながら、今夜これから最後の章を書くにあたり、オネーギンの終章のような、あんなふうの華やかな悲しみの結び方にしようか、それともゴーゴリの「喧嘩噺」式の絶望の終局にしよ・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・ロシア文学の古典の中でも、いま日本に流行しているのは、プーシュキンやゴーゴリの作品でなく、その文学の世界が、永久の分裂で血を流しているドストイェフスキーであるという事情には、いまの日本のこの社会的な心理がかかわっている。解決のない人間の間の・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・、それにはその年それぞれの理由から、様々の危期もあるだろうが、娘の十五、六という年と母の四十歳前後という年とが、或る事情のもとで重なると、女性の生涯の場面としてそこに独特なものが湧き上る事が少くない。ゴーゴリが「検察官」に描き出している市長・・・ 宮本百合子 「雨の昼」
・・・ もうこれからはゴーゴリの作品のような型で諷刺する諷刺文学は、プロレタリア文学の領域からは出ないのが当然だ。例えば「死せる魂」は傑作だが、プロレタリア的観点から農民はああ見られただけではすまない。それを書けば、諷刺より極めて弁証法的に扱・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・ だんだんこの小説を読んで行って、大変面白く思われるのは、ロシアが生んだ世界的な諷刺作家ゴーゴリの作品の世界と、この「黄金の仔牛」の世界の違いかた、同時にそこにある共通性であった。 ゴーゴリの作品の価値は世界古典のうちに一つの峰とし・・・ 宮本百合子 「音楽の民族性と諷刺」
・・・に巡礼をやり、今やっているゴーゴリの芝居では何をやっているか、旦那さんの方はきっと徹夜して小説かいてるでしょう。今夜見物する予定でしたが叔父様をお送りしたからやめになりました。 この近所には千葉で三年ばかり暮すことになった山田さんの奥さ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・緑郎はゴーゴリの「検察官」を組曲につくるプランをたて、しきりに思案中です。私はきのう、おとといでシャパロフ[自注12]をよみかえしたのですが、ゴーリキイより三つ年下のこのひとの経験はいろいろ比べて面白い。なかに、シベリアにはチェレムーシャと・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・かしこまってそこに連っている歌人・文学者たち一人一人の経歴が文学史的に細叙されているにつけ、つつしんでいる作者の描写が精密であればあるほど、そこにゴーゴリ風のあじわいが湧いて、読者は、全情景、登場人物などのすべてが、自分たちと同じ人間として・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・むかし築地小劇場がたくみな模倣でゴーゴリの検察官を上演した。あの劇中でも金のないフレスタコフのあなぐら部屋へ靴の裏みたいなあぶり肉をそれでも給仕が運んで来たじゃあないか。あの通りだった。一杯十カペイキの茶でも呼鈴。―― 朝八時と十時の間・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・その国で、諷刺文学がどんな形式と内容とをもって発展してきているかということは、意味ふかい観察眼である。ゴーゴリの「検察官」と「死せる魂」その他の意義はどこにあったろう。ガルシンの「赤い花」が西欧の読者の胸をうったのは、そのシンボリズムが何を・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」