出典:青空文庫
・・・ 私は荒涼とした思いをいだきながら、この水のじくじくした沼の岸にたたずんでひとりでツルゲーネフの森の旅を考えた。そうして枯草の間に竜胆の青い花が夢見顔に咲いているのを見た時に、しみじみあの I have nothing to do wi・・・ 芥川竜之介 「日光小品」
・・・それ故に外国文学に対してもまた、十分渠らの文学に従う意味を理解しつつもなお、東洋文芸に対する先入の不満が累をなしてこの同じ見方からして、その晩年にあってはかつて随喜したツルゲーネフをも詩人の空想と軽侮し、トルストイの如きは老人の寝言だと嘲っ・・・ 内田魯庵 「二葉亭四迷」
・・・文章上の理想が余り高過ぎたというよりも昔の文章家気質が失せなかったので、始終文章に屈托していた。ツルゲーネフを愛読したのも文章であって、晩年余りに感服しなくなってからもなお修辞上の精妙を嘖々し、ドストエフスキーの『罪と罰』の如きは露国の最大・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・ すなわちこれはツルゲーネフの書きたるものを二葉亭が訳して「あいびき」と題した短編の冒頭にある一節であって、自分がかかる落葉林の趣きを解するに至ったのはこの微妙な叙景の筆の力が多い。これはロシアの景でしかも林は樺の木で、武蔵野の林は・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・ 社会主義を抱かせるに関係のあった露国の作家は、それは幾つもあった。ツルゲーネフの作物、就中『ファーザース・エンド・チルドレン』中のバザーロフなんて男の性格は、今でも頭に染み込んでいる。その他チェルヌイシェーフスキー、ヘルツェン、それか・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・というのは、文学に対する尊敬の念が強かったので、例えばツルゲーネフが其の作をする時の心持は、非常に神聖なものであるから、これを翻訳するにも同様に神聖でなければならぬ、就ては、一字一句と雖、大切にせなければならぬとように信じたのである。 ・・・ 二葉亭四迷 「余が翻訳の標準」
・・・ 進歩性の問題は、ツルゲーネフが「父と子」という小説に書いた時代からすすんで、こんにちではどこの国でも、一九二〇年代の終りから三〇年代にかけての日本にみられたような、世代の分裂、親と子の離反としてだけに止っていない。親と子、世代と世代と・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・文学においては、ドイツのハイネ、ロシアのツルゲーネフなどが新時代の黎明を語った時代で、一般の人々の自主独立的な生活への要望はきわめて高まっていた。ウィルヘルム二世は一八四七年、国内に信仰の自由を許す法律を公布した。ところが、僅か二年ばかりで・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・トルストイ、チェホフ、ツルゲーネフ等と婦人を描く点において彼はどう違ったかという点、それは『文学評論』に書き、彼の初期のロマンチシズムがもっていた歴史的意味については『文学案内』に。 私はゴーリキイをこのように愛し、食べ、学び、そして、・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 後、暫くしてツルゲーネフの生活と作品との関係についてこれも短い一つの感想を書き、さらに『文学古典の再認識』でバルザックをうけもってから、私は自身の貧弱なこの種の仕事の経験を通じて、一つの意味深い印象を得ている。それは、偉大で才能ある過・・・ 宮本百合子 「作家研究ノート」