出典:青空文庫
・・・ これはかつてニュートンが問うまで常人のものではなかった。姦淫したる女を石にて打つにたうる無垢の人ありや? イエスがこの問いを提出するまで誰も自分の良心に対してかく問い得なかった。財の私的所有ならびに商業は倫理的に正しきものなりや? マルク・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・ ニュートンの光学が波動説の普及を妨げたとか、ラプラスの権威が熱の機械論の発達に邪魔になったとかという事はよく耳にする事である。ある意味では確かにそうかもしれない。しかしこの全責任を負わされてはこれらの大家たちはおそらく泉下に瞑する事が・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・物理化学の諸般の方則はもちろん、生物現象中に発見される調和的普遍的の事実にも、単に理性の満足以外に吾人の美感を刺激する事は少なくない。ニュートンが一見捕捉しがたいような天体の運動も簡単な重力の方則によって整然たる系統の下に一括される事を知っ・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・このような実例は科学史上枚挙に暇ないほどである。ニュートンが光の微粒子説を主張したという事がどれだけ波動説の承認を妨げたかは人の知る所である。またラプラスが熱を物質視したためにエネルゲチックの進歩を阻害した事も少なくない事は史家の認める所で・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・ガス分子論の胚子はルクレチウスの夢みた所である。ニュートンの微粒子説は倒れたが、これに代るべき微粒子輻射は近代に生れ出た。破天荒と考えられる素量説のごときも二十世紀の特産物ではないようである。エピナスの古い考えはケルビン、タムソンの原子説を・・・ 寺田寅彦 「科学上の骨董趣味と温故知新」
・・・我等が祖先のニュートンはいかにエライ者であったかと云う事を考えると隣の車井戸の屋根でアホーと鴉が鳴いた。 十二日 傘を竪にさす。雨は横に降る。 十三日 豆腐屋が来た。声の波の形が整わぬので新米という事が分る。 十四日 雪隠でプラ・・・ 寺田寅彦 「窮理日記」
・・・古い話ではあるがティコ・ブラーヘの天体観測の結果は、幾度か非科学的な占筮の用にも供せられたのであろうが、結局は名工ケプレルの手によって整然たる太陽系の模型の製作に使われた。ニュートンはまたこのケプレルの作ったものを素材として、さらに偉大な彼・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・また光というものでも、昔は人の眼から何物か飛び出して物体に当るから見えると思った時代もある。ニュートンは物体から微粒子が飛んで来るのが光だと考えたが、ハイゲンスが出て来て波動説を称えこれが承認されるに幾多の年月がかかった。それも始めはエーテ・・・ 寺田寅彦 「研究的態度の養成」
・・・十字軍や一九一四年の欧洲大戦のごときは世界人類の歴史の橋の袂であり、ポール・セザンヌと名づけられた一人の田舎爺は世界の美術史の上の橋の袂である。ニュートン、アインシュタイン、プランク等のした仕事もまた物理学史上のそれぞれの橋の袂であったとも・・・ 寺田寅彦 「さまよえるユダヤ人の手記より」
・・・それを掘り出すだけのことである。ニュートンがその一つの破片を掘り出し、フレネル、ホイゲンス等はもう一つの欠けらを掘り出した。それからそれといろいろの欠けらが掘り出されたが、欠けらと欠けらがしっくり合わなくて困っていた。どちらの欠けらも「間違・・・ 寺田寅彦 「スパーク」