出典:青空文庫
・・・ 学位の出し惜しみをする審査員といえども決して神様でない限り、その人の昔の学位論文が必ず完全無欠なものとは限らず、ノーベル賞に値いするほどの大発見でもないのであろう。しかし人間は妙なものである。姑にいびられた嫁が後日自分で姑の地位に立っ・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・ 三 ノーベル・プライズ ある夜いつものように仕事をしていると電話がかかって来た。某新聞社からだという。何事かと思って出てみると、国際電報によって昨年度と今年度のノーベル賞金の受賞者の名前の報知が届いた、その一人は・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 今年物理学上の功績によってノーベル賞をもらったインド人ラマンの経歴については自分はあまり確かな事を知らないが、人の話によると、インドの大学を卒業してから衣食のために銀行員の下っぱかなんかを勤めながら、楽しみにケンブリッジのマセマチカル・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・ 時々西洋へ出かけて目新しい機械や材料を仕入れて来ては田舎学者の前でしたり顔にひけらかすようなえらい学者でノーベル賞をもらった人はまだ聞かないようである。 そうはいうものの新しいものにはやはり誘惑がある。ある暖かい日曜に自分もとうと・・・ 寺田寅彦 「猫の穴掘り」
・・・その蒼白い疲れた顔を見た人は、それが世界のキュリー夫人であり、ノーベル賞の外に六つの世界的な賞を持ち、七つの賞牌を授けられ、四十の学術的称号をあらゆる国々から捧げられているキュリー夫人であるということを信じるのはおそらく困難であったろう。十・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・ 成功の冠は、一九〇四年、ピエールが四十五歳、マリヤが三十六歳の年、ラジウムを発見した業績によって、世界的に彼等の上にもたらされました。ノーベル賞を与えられた彼等は科学者として最高の名誉の席につかせられ、学界からおくられる称号、学位の数・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・の世界に随喜して、最大限のほめ言葉を惜しまない人々でも、ノーベル賞、世界平和賞のために日本から送られるべき候補作品としてはただ一人も「細雪」を推薦しなかった事実である。炬燵の中の雪見酒めいた文学の風情は、第二次大戦後の人類が、平和をもとめ、・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・セルマ・ラゲルレーフは、彼女の児童のための文学によってノーベル賞を与えられている。 日本では、女の生活は家庭の内で、極度に子供と結びつけられており、おそらく世界の文明国の中で日本の母親たちほど子供のために生涯の全時間を費しているところは・・・ 宮本百合子 「子供のために書く母たち」
・・・湯川夫人の日本振袖の姿も、ノーベル賞授賞の式場に異国情緒を添えた。 それぞれの国の民族が婦人や子供、としより連まで固有の服装に身をかざって、その土地伝統の祭りを祝うような日の光景は、はた目にもおもしろく愉しいものだ。けれども、その美・・・ 宮本百合子 「この三つのことば」
どこの国にでも、文化、文芸の業績に対する賞というものはあるらしい。その詮衡が世界的な規模で行われ、最もひろい意味で人類的な影響をもつ仕事に与えられるという点で、ノーベル賞が国際的な権威をみとめられていることは、誰でも知って・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」