出典:青空文庫
・・・北村君と阿母さんとの関係は、丁度バイロンと阿母さんとの関係のようで、北村君の一面非常に神経質な処は、阿母さんから伝わったのだ。それに阿母さんという人が、女でも煙草屋の店に坐って、頑張っていようという人だから、北村君の苛々した所は、阿母さんに・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・僕は、僕もバイロンに化け損ねた一匹の泥狐であることを、教えられ、化けていることに嫌気が出て、恋の相手に絶交状を書いた。自分の生活は、すべて嘘であり、偽であり、もう、何ごとも信ぜず、絶望の穴に落ち入る。きょうより以後、あなたの文学をみとめない・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・少年はアンダアシャツを頭からかぶって着おわり、「バイロンは、水泳している間だけは、自分の跛を意識しなくてよかったんだ。だから水の中に居ることを好んだのさ。本当に、本当に、水の中では靴も要らない。上衣も要らない。貴賤貧富の別が無いんだ。」と声・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・日頃、同僚から軽蔑され、親兄弟に心配を掛け、女房、恋人にまで信用されず、よろしい、それならば乃公も、奮発しよう、むかしバイロンという人は、一朝めざめたら其の名が世に高くなっていたとかいうではないか、やってみよう、というような経緯は、誰にだっ・・・ 太宰治 「困惑の弁」
・・・蔵から父の古い人名辞典を見つけだし、世界の文豪の略歴をしらべていた。バイロンは十八歳で処女詩集を出版している。シルレルもまた十八歳、「群盗」に筆を染めた。ダンテは九歳にして「新生」の腹案を得たのである。彼もまた。小学校のときからその文章をう・・・ 太宰治 「猿面冠者」
・・・けれども、一夜、転輾、わが胸の奥底ふかく秘め置きし、かの、それでもやっと一つ残し得たかなしい自矜、若きいのち破るとも孤城、まもり抜きますとバイロン卿に誓った掟、苦しき手錠、重い鉄鎖、いま豁然一笑、投げ捨てた。豚に真珠、豚に真珠、未来永劫、ほ・・・ 太宰治 「創生記」
・・・乞食になるか、バイロンになるか。神われに五ペンスを与う。佐竹の陰謀なんて糞くらえだ!」ふいと声を落して、「君、起きろよ。雨戸をあけてやろう。もうすぐみんなここへ来るよ。きょうこの部屋で海賊の打ち合せをしようと思ってね」 私は馬場の興奮に・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・ジュコーフスキーはロシアの詩人であるが、寧ろ翻訳家として名を成している。バイロンを多く訳しているが、それが妙に巧い。尤も当時のロシアは、其の社会状態が小バイロンを盛んに生んだ時代で、殊にジュコーフスキーの如きは、鉄中錚々たるものであったから・・・ 二葉亭四迷 「余が翻訳の標準」
・・・その第一詩集から形式・用語において過去の日本文学和文派の遺産の上に立っていたことは、自然に身をうちまかせる彼の情緒の本質がやはり自然への逃避の性質を多分にもっていたことを語って、尽きぬ感興を起させる。バイロンはイタリーの海で生命を終ったが、・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・ これらの人々は、ゲェテ、ホフマン、バイロンやスコット等の作品からも強く影響され、当時の社会の現実生活ではブルジョア共によって軽蔑され、価値を認められない存在であった未開人、民衆、子供や女や詩人というものの美と善とをも、「ありのままの自・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」