出典:青空文庫
・・・彼はこの後、パウロが洗礼を受けたのと同じアナニアスの洗礼を受けて、ヨセフと云う名を貰った。が、一度負った呪は、世界滅却の日が来るまで、解かれない。現に彼が、千七百二十一年六月二十二日、ムウニッヒの市に現れた事は、ホオルマイエルのタッシェン・・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・が考えてみますときに、あるいはエライ文学者の事業を考えてみますときに、その人の書いた本、その人の遺した事業はエライものでございますが、しかしその人の生涯に較べたときには実に小さい遺物だろうと思います。パウロの書翰は実に有益な書翰でありますけ・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・とある、何処でかと云うに、勿論現世ではない、「我等今鏡をもて見る如く昏然なり、然れど彼の時(キリストの国の顕には面を対せて相見ん、我れ今知ること全からず、然れど彼の時には我れ知らるる如く我れ知らん」とパウロは曰うた(哥林多、清き人は其の時に・・・ 内村鑑三 「聖書の読方」
・・・ 今君は、此の雑誌に、パウロの事を書いていたようであるが、今君の聖書に就いての知識は、ほんものである。四福音書に就いては、不勉強な私でも、いくらかは知っているような気がしているのだけれども、ロマ書、コリント前・後書、ガラテヤ書など所謂パ・・・ 太宰治 「パウロの混乱」
・・・いいものを見つけた。パウロの書翰集。テモテ前書の第二章。このラプンツェル物語の結びの言葉として、おあつらいむきであると長兄は、ひそかに首肯き、大いにもったい振って書き写した。 ――この故に、われは望む。男は怒らず争わず、いずれの処にても・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・使徒パウロからユダヤ人サウルへの拙劣な転身をした。驚くほど破廉恥な諸矛盾をその本の中にさらけ出している。党及び政府の一般的な方針に反対する批判の権利だけを認めているジイドは、ソヴェト内でトロツキイストたちの大ぴらな声をきくことが出来ないのを・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・ 使徒パウロは偶像を排するに火のごとき熱心をもってした。彼の見た偶像は真実の生の障礙たる迷信の対象に過ぎなかった。彼が名もなき一人のさすらい人としてアテネの町を歩く。彼の目にふれるのは偶像の光栄に浴し偶像の力に充たされたと迷信する愚昧な・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」