出典:青空文庫
・・・「チルチルは、ピタゴラスの定理って奴を知ってるかい。」「知りません。」勝治は、少ししょげる。「君は、知っているんだ。言葉で言えないだけなんだ。」「そうですね。」勝治は、ほっとする。「そうだろう? 定理ってのは皆そんなもの・・・ 太宰治 「花火」
・・・始めて、幾何学のピタゴラスの定理に打つかった時にはそれでも三週間頭をひねったが、おしまいには遂にその証明に成効した。論理的に確実なある物を捕える喜びは、もうこの頃から彼のうら若い頭に滲み渡っていた。数理に関する彼の所得は学校の教程などとは無・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・子供の片言でも、商品の広告文でも、法律の条文でも、幾何学の定理の証明でもそうである。ピタゴラスの定理の証明の出て来る小説もあるのである。 ここで言葉というのは文字どおりの意味での言葉である。絵画彫刻でも音楽舞踊でも皆それぞれの「言葉」を・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
幾何学を教わった人は誰でもピタゴラスの定理というものの名前ぐらいは覚えているであろう。直角三角形の一番長い辺の上に乗っけた枡形の面積が他の二つの辺の上に作った二つの枡形の面積の和に等しいというのである。オルダス・ハクスレー・・・ 寺田寅彦 「ピタゴラスと豆」
・・・あの音だ。ピタゴラス派の天球運動の諧音です」「あら、なんだかまわりがぼんやり青白くなってきましたわ」「夜が明けるのでしょうか。いやはてな。おお立派だ。あなたの顔がはっきり見える」「あなたもよ」「ええ、とうとう、僕たち二人きり・・・ 宮沢賢治 「シグナルとシグナレス」