出典:青空文庫
・・・同時にまたマルクスやエンゲルスの本に熱中しはじめたのもそれからである。僕は勿論社会科学に何の知識も持っていなかった。が、資本だの搾取だのと云う言葉にある尊敬――と云うよりもある恐怖を感じていた。彼はその恐怖を利用し、度たび僕を論難した。ヴェ・・・ 芥川竜之介 「彼」
良平はある雑誌社に校正の朱筆を握っている。しかしそれは本意ではない。彼は少しの暇さえあれば、翻訳のマルクスを耽読している。あるいは太い指の先に一本のバットを楽しみながら、薄暗いロシアを夢みている。百合の話もそう云う時にふと・・・ 芥川竜之介 「百合」
・・・労働者はクロポトキン、マルクスのような思想家をすら必要とはしていないのだ。かえってそれらのものなしに行くことが彼らの独自性と本能力とをより完全に発揮することになるかもしれないのだ。 それならたとえばクロポトキン、マルクスたちのおもな功績・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・は暗黙の中にこの気持ちを十分に表現しているように見える。マルクスは唯物史観に立脚したと称せられているけれども、もし私の理解が誤っていなかったならば、その唯物史観の背後には、力強い精神的要求が潜んでいたように見える。彼はその宣言の中に人々間の・・・ 有島武郎 「想片」
・・・それなら、なぜクロポトキンやマルクスや露国の革命をまで引き合いに出して物をいうかとの詰問もあろうけれども、それは僕自身の気持ちからいうならば、前掲の人人または事件をああ考えねばならなくなるという例を示したにすぎない。気持ちで議論をするのはけ・・・ 有島武郎 「片信」
・・・就中ヘルチェンは晩年までも座辺から全集を離さなかったほど反覆した。マルクスの思想をも一と通りは弁えていた。が、畢竟は談理を好む論理遊戯から愛読したので、理解者であったが共鳴者でなかった。書斎の空想として興味を持っても実現出来るものともまた是・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・ そして、僕は近代小説は結局日本の伝統小説からは生まれないという考えの下に、よしんば二流三流五流に終るとも、猫でも杓子でもない独自の小説を書いて行きたいと、日夜考えておりますので、エロだとかマルクスだとか、眼を向いてキョロキョロしている・・・ 織田作之助 「猫と杓子について」
・・・アナーキストとして有名なクロポトキンには著書『倫理学』があり、マルクス主義運動家時代のカウツキーにさえ『倫理学と唯物史観』の著があるくらいである。ドイツ無産政党の組織者であったラサールには倫理学的エッセイ多く、エンゲルスや、シュモルラーには・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ イエスがこの問いを提出するまで誰も自分の良心に対してかく問い得なかった。財の私的所有ならびに商業は倫理的に正しきものなりや? マルクスが問うてみせるまで、常人はそれほどにも自分らの禍福の根因であるこの問いを問うことができなかった。 天・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・第一、ぼくが全く無意義な存在であること、例え、マルクスが商事会社――ブローカー――広告業――外交販売員が社会にとって有害であると説かぬにしろ、ぼくは自分の商売が憎らしいのに決っています。曾つて、主任から、個性を殺せと説教されました。そうして・・・ 太宰治 「虚構の春」