出典:青空文庫
・・・ かつてロンドン滞在中、某氏とハンプトンコートの離宮を拝観に行った事がある。某氏はベデカの案内記と首引で一々引き合わして説明してくれたので大いに面白かった。そのうちにある室で何番目の窓からどの方向を見ると景色がいいという事を教えたのがあ・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・を唄うことが出来るばかりでなく、ロンドンの動物園にいたある大鴉などは人が寄って来ると“Who are you ?”と六かしい声で咎めるので観客の人気者となったという話である。そんなことから考えると、鴉がすぐ耳元で歌っている歌に合わせて頸を曲・・・ 寺田寅彦 「鴉と唱歌」
・・・ 星の世界の住民が大砲弾に乗込んで地球に進入し、ロンドン附近で散々に暴れ廻り、今にも地球が焦土となるかと思っていると、どうしたことか急にぱったりと活動を停止する。変だと思ってよく調べてみると、星の世界には悪い黴菌がいないために黴菌に対す・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・パリからロンドンへ渡ってそこで日本からの送金を受取るはずになっており、従ってパリ滞在中は財布の内圧が極度に低下していたので特に煙草の専売に好感を有ち損なったのであろう。マッチも高かったと思うが、それよりもマッチのフランス語を教わって来るのを・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・それはとにかく、この絵の中のロンドン、リーディング間の郵便馬車の馬丁がシルクハットをかぶってそうしてやはり角笛を吹いている。そうして自分の「記憶」の夢の中では、この郵便馬車と、銀座の鉄道馬車とがすっかり一つに溶け合ってしまって、切っても切れ・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・Rue de la Faisanderie の大道は広々と目の下に見えていて、人通りは少い。ロンドンの上流社会の住んでいる市区によくこんな立派な、幅の広い町があるが、ここの通りはそれに似ている。 ピエエル・オオビュルナンは良久しく物を案・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・そら、むすこが、エングランド、ロンドンにいて、おやじがスコットランド、カルクシャイヤにいた。むすこがおやじに電報をかけた、おれはちゃんと手帳へ書いておいたがね、」 じいさんは手帳を出して、それから大きなめがねを出してもっともらしく掛けて・・・ 宮沢賢治 「月夜のでんしんばしら」
・・・「いいえ、まるでちらばってますよ、それに研究室兼用ですからね、あっちの隅には顕微鏡こっちにはロンドンタイムス、大理石のシィザアがころがったりまるっきりごったごたです。」「まあ、立派だわねえ、ほんとうに立派だわ。」 ふんと狐の謙遜・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
・・・一九二九年の春から十二月初旬までパリ、ロンドン、ベルリンなどに行ったが。 モスクワでの生活と、その生活の感銘をもって比較しずにいられなかったロンドンやパリ、ベルリンの生活から、作者は真に資本主義社会の生活と社会主義社会での生活との相異を・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・「ロンドン一九二九年」も一九二九年の夏のロンドンで、十月にアメリカに経済恐慌がおこる直前のロンドンであった。そのころ、イギリスの失業者数は三百万人から四百万人もあった。高度に発達した資本主義国は、そのころ急速に資本の独占化にすすんで、い・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」