出典:青空文庫
・・・新設されべき文芸院が果してこの不振の救済を急務として適当の仕事を遣り出すならば、よし永久の必要はなしとした所で、刻下の困難を救う一時の方便上、文壇に縁の深い我々は折れ合って無理にも賛成の意を表したいが、どうしてそれを仕終せるかの実行問題にな・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・ただ遥かにかの西方の覚者救済者阿弥陀仏に帰してこの矛盾の世界を離るべきである。それ然る後に於て菜食主義もよろしいのである。この事柄は敢て議論ではない、吾等の大教師にして仏の化身たる親鸞僧正がまのあたり肉食を行い爾来わが本願寺は代々これを行っ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・永年住んでいたものだから、毎月敷生村から救済費として米を六升ずつ送る条件で、愈々沢や婆は柳田村に移されることになった。 沢や婆は、一軒ずつ暇乞いに歩いた。「私ももうこれでおめにかかれませんよ、こう弱っちゃあね」 ごぼごぼと咳をし・・・ 宮本百合子 「秋の反射」
・・・エリカ・マンは、一九三六年、アメリカへゆき、スペイン救済の必要と、ナチス・ドイツが、戦争の温床であることを警告した。第二次大戦が勃発してから、エリカ・マンの反ナチ闘争と民主主義のためのたたかいはいっそう広汎におこなわれ、「生への逃亡」ではド・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・村の労銀というのは恐らく従来の救済工事の日当や日傭労働賃銀を標準にしてのことであったろう。むしろ意外な苦情を受けた専門家たちは「労銀が多すぎる為に起る弊害について大いに考えさせられた。副業が本業になることを恐れるためである」その問題は、それ・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・ 確に或る国は率先して華々しく救済の任務を負い始めた。けれども、その動機に鋭い直覚を持つ者は、切角の施物も、苦々しく味わうことは無いだろうか。 反対の或る一部は、まるで無感覚な状態に在る。ぼんやりと、耳を掠める風聞。――然し、兎も角・・・ 宮本百合子 「アワァビット」
・・・「失業者の救済なんてどうせ出来っこないんだから、片っぱすから戦争へ出して殺しっちゃえば世話はいらないんだ」 極めて冷静な酷薄な調子で云った。「この社会には中流人だけあればいいんだよ」「中流人て、たとえばどういう人なんです?」・・・ 宮本百合子 「刻々」
是非を超えた最後の手段として離婚は認めなければなりません。内外的原因によって過った結婚をし人間としてその異性との生活が、救済の余地無い程の破綻を生じた場合、より以上の不正、人格的堕落を防止する為には、強制的、又相互的離婚を・・・ 宮本百合子 「心ひとつ」
・・・ 戦争によって配偶を失った女の人たち、その家族を失った子供たちのために、「救済」という形が考えられているうちは、たとえそれが部分的にかなりゆきとどいた方式でされようとも、世界人類の頭上を不吉なはげたかのように舞っている不幸の本質がとりの・・・ 宮本百合子 「『この果てに君ある如く』の選後に」
・・・神川平助の性格でもあるのだが、年齢が語る幾歳月の生活感情の習慣が、代官神川の農民救済の善意を独断なものにして、そこからの悲劇がかもされてゆく。その父の仕事を支持しながら、そのやりかたには、人間的に反撥する荘太郎を中心においたとしたら、この一・・・ 宮本百合子 「作品の主人公と心理の翳」