出典:青空文庫
・・・二葉亭も根が漢学育ちで魏叔子や壮悔堂を毎日繰返し、同じ心持で清少納言や鴨長明を読み、馬琴や京伝三馬の俗文学までも究め、課題の文章を練習する意で近松や馬琴の真似をしたり、あるいは俗文を漢訳したり漢文を俗訳したりした癖が抜け切れないで、文章を気・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・』これを写しながら、給仕君におとぎばなし、紫式部、清少納言、日本霊異記とせがまれ、話しているうち、彼氏恐怖のあまり、歯をがつ、がつ、がつ、三度、音たてて鳴らしてふるえました。太宰さん。もう、ねましょう。にやにや薄笑いしていい加減の合槌をうつ・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・春はあけぼの、という文章をちらと思い浮べていい気持であったが、それは清少納言の文章であった事に気附いて少し興覚めた。あわてて机の本立から引き出した本は、「ギリシャ神話」である。すなわち異教の神話である。ここに於いて次女のアアメンは、真赤なに・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・という俳句の季題があるのを思い出したから、調べついでに歳時記をあけてみると清少納言の『枕草紙』からとして次のような話が引いてある。「簑虫の父親は鬼であった。親に似て恐ろしかろうといって、親のわるい着物を引きかぶせてやり、秋風が吹く頃になった・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・ このような人間の心理に関する分析的な考察も、すべてがこの著者のオリジナルなものではないであろう。清少納言から西鶴を通じて現代へ流れて来ている一つの流れの途中の一つの淀みのようなものに過ぎないかもしれないが、しかし、兼好法師という人の頭・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
・・・そういうふうな家では、小夜という娘もそこに働いているうちはお竹どんと呼ばれるが、宮中生活のよび名で宮中に召使われているものの名であった紫式部、清少納言、赤染衛門というのも、それぞれ使われているものとしての呼名である。紫式部が藤原の何々という・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・その一人の方には最近清少納言研究の面白い著作がある。女の生活の現実でもやはり仕事が友情を育て保ってゆくところが、私たちをよろこばせもし、また考えさせもするところではないだろうか。 目白の女子大にいたのは、ほんの一学期であったが、ここで知・・・ 宮本百合子 「なつかしい仲間」
・・・ 清少納言という人は当時の女流の文筆家の中でも才気煥発な、直感の鋭い才媛であったことは枕草子のあらゆる描写の鮮明さ、独自な着眼点などで誰しも肯うところだと思う。枕草子の散文として独特な形そのものも清少納言の刹那に鋭く働いた感覚が反映・・・ 宮本百合子 「山の彼方は」
・・・ 関みさを氏の『清少納言とその文学』は、若い世代の古典への常識のための手びきという明瞭な立場をもって書かれていて、その目的のためには実に親切に整理されている本だと思う。この一冊の本を精読すれば、私たちは他の王朝文学の全般をよむ場合に先ず・・・ 宮本百合子 「若い世代のための日本古典研究」
・・・あのような天才を持っていた清少納言にしてもそれは同じである。この時代の歴史の上に父の姓とともに固有の名を記されているのは、極く少数の、藤原氏直系の娘たちだけで、いずれも皇后、妃、中宮などになった人達ばかりである。 藤原氏は、宮廷内のあら・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」