出典:青空文庫
・・・しかるに現在の科学の国土はまだウパニシャドや老子やソクラテスの世界との通路を一筋でももっていない。芭蕉や広重の世界にも手を出す手がかりをもっていない。そういう別の世界の存在はしかし人間の事実である。理屈ではない。そういう事実を無視して、科学・・・ 寺田寅彦 「科学者とあたま」
一 電車で老子に会った話 中学で孔子や孟子のことは飽きるほど教わったが、老子のことはちっとも教わらなかった。ただ自分等より一年前のクラスで、K先生という、少し風変り、というよりも奇行を以て有名な漢学者に教・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・ 老子にこんな言葉があった。「果而勿矜。果而勿伐。果而勿驕。果而勿不得止。果而勿強。」老子はなかなかフランス人であったと見える。 二 夜、丸の内の淋しい町を歩いていたとき、子供を負ぶった見窄らしい中年の男・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・孔子と老子のちがいくらいにはちがいそうである。 四 新しいもの好きの学者があるとする。新しいおもちゃを貰った子供が古い方を掃溜に投込んでしまうように、新しい学説の前にはすべての古いものがみんな駄目になったよう・・・ 寺田寅彦 「スパーク」
・・・ 元来閭は科挙に応ずるために、経書を読んで、五言の詩を作ることを習ったばかりで、仏典を読んだこともなく、老子を研究したこともない。しかし僧侶や道士というものに対しては、なぜということもなく尊敬の念を持っている。自分の会得せぬものに対する・・・ 森鴎外 「寒山拾得」
・・・それは道士等が王室の李姓であるのを奇貨として、老子を先祖だと言い做し、老君に仕うること宗廟に仕うるが如くならしめたためである。天宝以来西の京の長安には太清宮があり、東の京の洛陽には太微宮があった。その外都会ごとに紫極宮があって、どこでも日を・・・ 森鴎外 「魚玄機」