出典:青空文庫
・・・この十字架に掛けられていなさる耶蘇殿は定めて身に覚えがあろう。その疵のある象牙の足の下に身を倒して甘い焔を胸の中に受けようと思いながら、その胸は煖まる代に冷え切って、悔や悶や恥のために、身も世もあられぬ思をしたものが幾人あった事やら。お前は・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・荒神様が消えると耶蘇が出て来た。これは十字架上の耶蘇だと見えて首をうなだれて眼をつぶって居るが、それにもかかわらず頭の周囲には丸い御光が輝いて居る。耶蘇が首をあげて眼を開くと、面頬を著けた武者の顔と変った。その武者の顔をよくよく見て居る内に・・・ 正岡子規 「ランプの影」
・・・ 相手の人格が頑固野卑である場合には、誤解を解くことはますますむずかしい。耶蘇でさえそれを解き得なかった。 私は群集の誤解を恐れてはならない。そして誤解を解くための焦燥などは絶対にしてはいけない。たやすく群集に理解されることは危険で・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・同時にまた彼は熱心なキリシタン排撃者であって、仕官の前年に『排耶蘇』を書いている。松永貞徳とともに、『妙貞問答』の著者不干ハビアンを訪ねた時の記事である。その時、まず第一に問題となったのは、「大地は円いかどうか」ということであった。羅山はハ・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」