・・・プラタナスの枯葉がきょうのすこし強い風にふきおとされて雨にぬれた歩道に散っていました。日比谷公園では例年のとおり菊花大会をやっています。用事で公園をいそぎ足にぬけていたら、いかにも菊作りしそうな小商人風の小父さんが、ピンと折れ目のついた羽織・・・ 宮本百合子 「二人の弟たちへのたより」
・・・「こんだあ上野公園や日比谷公園へつれてってくれないかね」「はぐれないようにして貰わなくちゃ。先行ったとき、車で飛ばしちまっただけで何が何だか分りゃしなかったわ、足でちっとも歩かないんだもの」 東京見物の相談であった。彼等は浮いた・・・ 宮本百合子 「町の展望」
・・・かりに父が日比谷公園の側に立つとする。目に映る民衆の大部分は、営々として、また黙々として、僅少の労銀のために汗を流している人々である。彼らはその労働を怠ることなくしてはこの老人の饒舌に耳を傾けることができない。そうして父が痛撃しようと欲する・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫