・・・のあき袋をかぶせ、はしご段の方に耳をそば立てた時の様子を見て、もろい奴、見ず転の骨頂だという嫌気がしたが、しかし自分の自由になるものは、――犬猫を飼ってもそうだろうが――それが人間であれば、いかなお多福でも、一層可愛くなるのが人情だ。国府津・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・くそ真面目にかげ日向なくやる者は馬鹿の骨頂である。──そういうことも覚えた。 靴の磨きようが悪いと、その靴を頚に引っかけさせられて、各班を廻らせられる。掃除の仕方が悪いと、長い箒を尻尾に結びつけられて、それをぞろ/\引きずって、これも各・・・ 黒島伝治 「入営前後」
・・・指で人をさすなんかは失礼の骨頂だ。習慣がこうであるのにさすが倫敦は世界の勧工場だからあまり珍らしそうに外国人を玩弄しない。それからたいていの人間は非常に忙がしい。頭の中が金の事で充満しているから日本人などを冷かしている暇がないというような訳・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・全く詰らない骨頂さ、だがね、生きてると何か役に立てないこともあるまい。いつか何かの折があるだろう、と云う空頼みが俺たちを引っ張っているんだよ」 私は全っ切り誤解していたんだ。そして私は何と云う恥知らずだったろう。 私はビール箱の衝立・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・その動かされかたは複雑で弱さも強さも人間らしさの骨頂でもたれていることを痛感しているのは学生自身ではないだろうか。それが現代の文化の波をどのようにうけ、どのようにかえしているかということは、植物にも動物にもない人間の切実な生活史の実質である・・・ 宮本百合子 「生態の流行」
・・・天帝に媚びれば、仕事が殖えるとでも思っているなら愚の骨頂だ。ミーダ ――……森としているなあ。何だか四辺ががらんとしすぎて、いつもなら聞えない第一天の物音が、つつぬけに耳の穴へ忍び込みそうだ。カラでも早く帰って来ればいいのに。二・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・ ものは方便、金がもの云う時世に生れて、変におかたいことを云うのは、馬鹿の骨頂だ。 何とか彼とか理窟をつけて、溜めたくないようなふりをしている者のお仲間入りをしていられるものか。何と云われたってかまわずドシドシ溜れば、それでいいのだ・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・利のために働かず、任務自身のための任務をつくして来た父から見ると、現在の政治家のように利のために動いて国家のための任務をその方便としている人間は、腐敗したものの骨頂である。例えば原敬のごときに対しては奸獰邪智の梟雄として心から憎悪を抱いてい・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫