・・・それを今まで読まずにいるのは、したがってこの問に明白な答を与ええないのは、全く自分の怠慢である。そう言えば今年の秋も、もういつか小春になってしまった。 二 ちょうどそれと反対なのは、竜華寺にある樗牛の墓である。・・・ 芥川竜之介 「樗牛の事」
・・・ 第二の手紙 ――警察署長閣下、 閣下の怠慢は、私たち夫妻の上に、最後の不幸を齎しました。私の妻は、昨日突然失踪したぎり、未にどうなったかわかりません。私は危みます。妻は世間の圧迫に耐え兼ねて、自殺したのではござ・・・ 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・かかる保証を有ちながら、私が所有地解放を断行しなかったのは、私としてはなはだ怠慢であったので、諸君に対しことさら面目ない次第です。 だいたい以上の理由のもとに、私はこの土地の全体を諸君全体に無償で譲り渡します。ただし正確にいうと、私の徴・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・楽を解するの頭脳がないのである、彼等が蕩々相率ひて、浅薄下劣な娯楽に耽るに至れるは勢の自然である、堕落するが当然であると云わねばならぬ、憐むべし彼等と雖も、生れながらの下劣性あるにあらず、彼等の誤信と怠慢とは、今日の不幸を招いだので時に自ら・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・しかし人間の無謀と怠慢とになりし沙漠はこれを恢復するにもっとも難いものであります。しかしてユトランドの荒地はこの種の荒地であったのであります。今より八百年前の昔にはそこに繁茂せる良き林がありました。しかして降って今より二百年前まではところど・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・しかも、一たび神様となるや、その権威は絶対であって、片言隻句ことごとく神聖視されて、敗戦後各分野で権威や神聖への疑義が提出されているのに、文壇の権威は少しも疑われていないのは、何たる怠慢であろうか。フランスのように多くの古典を伝統として持っ・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・ 命令に対して、怠慢をつぐなうため、早速銃をとって立ちあがるかと思いの外、彼の部下の顔には、××な、苦々しい感情があり/\と現れた。「うて、うち×せ!」 だが、その時、銃を取った大西上等兵と浜田一等兵は、安全装置を戻すと、直ちに・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・九天たかく存します神は、来る日も来る日も昼寝のみ、まったくの怠慢。私いちど、しのび足、かれの寝所に滑り込んで神の冠、そっとこの大頭へ載せてみたことさえございます。神罰なんぞ恐れんや。はっはっは。いっそ、その罰、拝見したいものではある!」予期・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・これは意外だ。怠慢の二字に尽きる。フランス革命史なんかよりは、現代の流行歌のほうが、少くとも我々にとっては重大ではないか。いやしくも君、国民学校の教師でありながら、君、現代の流行歌一つご存じないとは、君。 大丈夫ですか? そんなに飲・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・官衙や商社における組織や行政の不備や吏員の怠慢に対しても犀利な批評と痛切な助言を加えたい。 これらのあらゆる探究摘発批評の動機が純粋に好意的のものでありたい。不備に対して当事者を攻撃し誹謗する事よりもむしろ当事者の味方になり、そうして一・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
出典:青空文庫