・・・今でも其の時分の面影を残して居る私塾が市中を捜したらば少しは有るでしょうが、殆ど先ず今日は絶えたといっても宜敷いのです。私塾と云えばいずれ規模の大きいのは無いのですが、それらの塾は実に小規模のもので、学舎というよりむしろただの家といった方が・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・その公判すら傍聴を禁止された今日にあっては、もとより、十分にこれをいうの自由はもたぬ。百年ののち、たれかあるいはわたくしに代わっていうかも知れぬ。いずれにしても、死刑そのものはなんでもない。 これは、放言でもなく、壮語でもなく、かざりの・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
先生。 私は今日から休ませてもらいます。みんながイジめるし、馬鹿にするし、じゅ業料もおさめられないし、それに前から出すことにしてあった戦争のお金も出せないからです。先生も知っているように、私は誰よりもウンと勉強して偉く・・・ 小林多喜二 「級長の願い」
・・・は後なる床柱これへ凭れて腕組みするを海山越えてこの土地ばかりへも二度の引眉毛またかと言わるる大吉の目に入りおふさぎでござりまするのとやにわに打ちこまれて俊雄は縮み上り誠恐誠惶詞なきを同伴の男が助け上げ今日観た芝居咄を座興とするに俊雄も少々の・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・内儀「賤しいたって貴方、お米を買うことが出来ませんよ、今日も米櫃を払って、お粥にして上げましたので」七「それは/\苦々しいことで」内儀「そんな事を仰しゃらずに往って入らっしゃいまし」七「じゃア往こう、だが当にしなさんな」・・・ 著:三遊亭円朝 校訂:鈴木行三 「梅若七兵衞」
・・・あの長い漂泊の苦痛を考えると、よく自分のようなものが斯うして今日まで生きながらえて来たと思われる位。破船――というより外に自分の生涯を譬える言葉は見当らない。それがこの山の上の港へ漂い着いて、世離れた測候所の技手をして、雲の形を眺めて暮す身・・・ 島崎藤村 「朝飯」
・・・けれども今日までの私はまだどうもそれだけの思いきりもつかぬ。一方には赤い血の色や青い空の色も欲しいという気持が滅しない。幾ら知識を駆使して見てもこの矛盾は残る。つまり私は一方にはある意味での宗教を観ているとともに、一方はきわめて散文的な、方・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・ されば堯典記載の天文が、今日の科學的進歩の結果と相合はず、その十二宮、二十八宿を東西南北の相稱的位置に排列せることが、天文の實際にあはざることも、もとより當然のことなり。この堯典の記事は天文の實地觀測に立脚せるものには非ずして、占星思・・・ 白鳥庫吉 「『尚書』の高等批評」
・・・王さまはその王女でなくてはどうしてもおいやなので、それなり今日までだれもおもらいにならないのでした。 ところが、今ウイリイの羽根を見てびっくりなすったのもそのはずです。羽根の中の画顔は王さまが今まで一日もお忘れになることが出来なかった、・・・ 鈴木三重吉 「黄金鳥」
・・・「ママ今日私は村に行って太陽が見たい、ここは暗いんですもの」 とその小さな子が申しました。「昼過ぎになったら、太陽を拝みにつれて行ってあげますからね」 そう言えばここは、この島の海岸の高いがけの間にあって暗い所でした。おまけ・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎 「真夏の夢」
出典:青空文庫