・・・とにかく僕は、ツネちゃんに声をかけられて、それから、のこのこツネちゃんの射的場に行ったのだ。「ツネちゃん、疎開しないのか。」「あなたたちと一緒よ。死んだって焼けたって、かまやしないじゃないの。」「すごいものだね。」 と僕は言・・・ 太宰治 「雀」
・・・ このように巧い結末を告げるときもあれば、また、――おれが、どのように恥かしくて、この押入れの前に呆然たちつくして居るか、穴あればはいりたき実感いまより一そう強烈の事態にたちいたらば、のこのこ押入れにはいろう魂胆、そんなばかげた、い・・・ 太宰治 「創生記」
・・・僕はむずかしい言葉じゃ言えないけれども、自意識過剰というのは、たとえば、道の両側に何百人かの女学生が長い列をつくってならんでいて、そこへ自分が偶然にさしかかり、そのあいだをひとりで、のこのこ通って行くときの一挙手一投足、ことごとくぎこちなく・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・さまに呆れられ、笑われて、いやいや、決してうらみを申し述べているのではございません、じっさい私はダメな老人で、呆れられ笑われるのも、つまりは理の当然というもので、このような男が、いかに御時勢とは言え、のこのこ人中に出て、しかも教育会! この・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・私にのこのこついてきて、何かそれが飼われているものの義務とでも思っているのか、途で逢う犬、逢う犬、かならず凄惨に吠えあって、主人としての私は、そのときどんなに恐怖にわななき震えていることか。自動車呼びとめて、それに乗ってドアをばたんと閉じ、・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・は二つ三つ、いい雑誌に発表せられ、その反響として起った罵倒の言葉も、また支持の言葉も、共に私には強烈すぎて狼狽、不安の為に逆上して、薬品中毒は一層すすみ、あれこれ苦しさの余り、のこのこ雑誌社に出掛けては編輯員または社長にまで面会を求めて、原・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・、(△の如き位置に、各々外を向いて坐っていたのでは話にもならないが、各々内側に向い合って腰を掛け、作者は語り、読者は聞き、評者は、或いは作者の話に相槌を打ち、或いは不審を訊この頃、馬鹿教授たちがいやにのこのこ出て来て、例えば、直線上に二点を・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・ そしたらとうとう、象がのこのこ上って来た。そして器械の前のとこを、呑気にあるきはじめたのだ。 ところが何せ、器械はひどく廻っていて、籾は夕立か霰のように、パチパチ象にあたるのだ。象はいかにもうるさいらしく、小さなその眼を細めていた・・・ 宮沢賢治 「オツベルと象」
・・・百姓はシの字を書いた三角の物を額へ当てて、先祖の幽霊が盆にのこのこ歩いて来ると思っている。道学先生は義務の発電所のようなものが、天の上かどこかにあって、自分の教わった師匠がその電気を取り続いで、自分に掛けてくれて、そのお蔭で自分が生涯ぴりぴ・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・それに組へのこのこ出かけていって恰好の悪いこと知らんのか!」「何を云うのや、お前!」 お霜は勘次をじっと見た。「しぶったれ!」勘次は小屋の外へ出ていった。 お霜は何ぜ勘次が怒るのか全く分らなかった。が、自分の吝嗇の一事として・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫