・・・ それでははじめから、そうしてあげるのだったんですが、手はなし、こうやって小児に世話が焼けますのに、入相で忙しいもんですから。……あの、茄子のつき加減なのがありますから、それでお茶づけをあげましょう。」 薄暗がりに頷いたように見て取・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・――すぐこの階のもとへ、灯ともしの翁一人、立出づるが、その油差の上に差置く、燈心が、その燈心が、入相すぐる夜嵐の、やがて、颯と吹起るにさえ、そよりとも動かなかったのは不思議であろう。 啾々と近づき、啾々と進んで、杖をバタリと置いた。・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・ 雪の頂から星が一つ下がったように、入相の座敷に電燈の点いた時、女中が風呂を知らせに来た。「すぐに膳を。」と声を掛けておいて、待ち構えた湯どのへ、一散――例の洗面所の向うの扉を開けると、上がり場らしいが、ハテ真暗である。いやいや、提・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
出典:青空文庫