・・・彼は、左様な質問を呈出したなら、きっと、其那事を質問する馬鹿があるか、何の為に修身を習って来た! と真赤になりますでしょう。 然し、C先生、此は決して冗談ではございません。日本の所謂先覚婦人は、兎角、青年自らの発言に耳を傾けるより先ず先・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 作者は、この人生に日本の過去の教養的常識が呈出して来たあくの抜けたもの、静的な美のかわりに、「動物的なもの」「骨格をつくる」ところの「アクのつよいもの」の価値を主張している。亮子という溌剌として生来の生活力を豊富に蔵した若い女を通じて・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・彼女の経験の増大と、社会的事情の進みとは、彼女が呈出しているこの重大な人間的課題を、今日どう解いているであろう。彼女は女及び人間、そして革命的ジャーナリストとしての自身の生活で、どのように答えているであろうか。恐らく、スメドレーは「女一人大・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
・・・この社会の正義というものについて大きい疑問を呈出したのがユーゴーの「レ・ミゼラブル」であり、その主人公ジャン・バルジャンの飢えである。 六月四日の新聞は世界の人の目に何ともいえない皮肉さで腹の底までしみとおるような写真をのせた。六月三日・・・ 宮本百合子 「動物愛護デー」
・・・ころが、その俳優の役は、生活態度のふっきれない、決断のしにくい、社会現象のうちにある歴史的な意味や価値をすぐつかめない崩れた感覚の若者であってその人物の性格が、俳優の現実的人間性と絡んで、大きい困難を呈出した。その若い俳優は、自分の精神と肉・・・ 宮本百合子 「俳優生活について」
・・・ この小説は、夫婦ともどもに一定の仕事をもって行く結婚生活、家庭生活について、又、それぞれ独立した社会的存在である夫妻が、仕事の上で互に影響し合う微妙な心理について、夥しい問題を呈出している。これらの問題の中には読者にとって明かに普遍性・・・ 宮本百合子 「はるかな道」
・・・そして誰の目にも明らかなように、反動的な動機から呈出されている両氏のいい分のかげに隠されているものに対して、注意をひかれたのであった。何故なら、もし一般の人々の感情が、ひと頃のように、プロレタリア作家の間でさえいわゆる転向しない者は間抜けの・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
・・・ ゴーリキイは率直にその疑問を呈出した。「何にするんだい?」「辻堂さ、似てるだろう?」そして「雀から聖骸がとれるかもしれないよ。罪科もないのに苦しみを受けた致命者なんだから……」 ゴーリキイは、いかにも彼の性質らしい現実的な問い・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・けれども、舟橋氏が告知板にかかれた文章そのものが、短い表現であるがそのものとして、私たちに一つの課題を呈出していると思う。その点をここで触れて見たい。 舟橋氏は子供を愛することと、ヒューマニズムとは牴触しない、ヒューマニズムのはじまりは・・・ 宮本百合子 「夜叉のなげき」
・・・うたう雲雀、可愛いい人形から、急に一人の女に転生しようとしたノラの前途に、ふせられていたこの課題は、きょうの日本の勤労女性全般の前に、ノラの時代より、遙かに具体的に矛盾の諸相を呈出している。 結婚の問題にあたって、私たちを深刻に考えこま・・・ 宮本百合子 「離婚について」
出典:青空文庫