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・・・もっとも従来蓄音機などで始終こういうものに馴れていれば何でもないであろうが、自分の場合はそうでもなく、またラジオでそういうものを聞く回数がきわめて稀なためであるに相違ない。これが西洋音楽だとちっともそういう気持はしないのである。 聞きた・・・ 寺田寅彦 「ラジオ雑感」
・・・「おい、回数券だ、三十回……。」 鳥打帽に双子縞の尻端折、下には長い毛糸の靴足袋に編上げ靴を穿いた自転車屋の手代とでもいいそうな男が、一円紙幣二枚を車掌に渡した。車掌は受取ったなり向うを見て、狼狽てて出て行き数寄屋橋へ停車の先触れを・・・ 永井荷風 「深川の唄」
・・・ 黒い書類入れを側において、年とった男が回数券を出してきろうとすると、「今日は一枚です……のりかえなければ五銭均一ですから」 俄車掌は、動揺のためのめるまいと長い両脛でうんと踏張り、自分の尖った鼻を腰かけている相手の帽子の下へ突・・・ 宮本百合子 「電車の見えない電車通り」
・・・省線に乗ったらば、二十銭区間が四十銭になり、三円の回数券は、九円である。闇市場では、ミカンや汁粉は、とぶようにうれて、やすいものは売れないと、新聞は報じている。やすいものといっても、十五円のものが十円に下った程度であるとも報じられている。・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫