・・・婦人をその天与の生理にも、心理にも合わない労働戦線に狩り出して、男子のような競争をさせるのでなく、処女らしさ、妻らしさ、母らしさを保護し、育児と、美容とに矛盾しない範囲の労働にとどめしめることは、新しい社会の義務だと思うのである。天理の自然・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・それは心理上の事実の問題であって、世界認識の問題ではない。自己認識の問題に終始する。 かくの如きはカントの主観主義、形式主義を継承するリップスの倫理学の定義であるが、かかる倫理学が答え得ることは人間の意志そのものの形式に終始せざるを得ず・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ 下りては来ましたが、つい先刻まで一緒にいた人がもう訳も分らぬ山の魔の手にさらわれて終ったと思うと、不思議な心理状態になっていたに相違ありません。で、我はそういう場合へ行ったことがなくて、ただ話のみを聞いただけでは、それらの人の心の中が・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・又人間の心をもイヤに西洋の奴らは直線的に解剖したがるから、呆れて物がいえない、馬鹿馬鹿しい折詰の酢子みたような心理学になるのサ。一切生活機能のあるもの、いい直して見れば力の行われているものを直線的にぐずぐず論ずるのが古来の大まちがいサ。アア・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
・・・ 事実、作品に依れば、その描写の的確、心理の微妙、神への強烈な凝視、すべて、まさしく一流中の一流である。ただ少し、構成の投げやりな点が、かれを第二のシェクスピアにさせなかった。とにかく、これから、諸君と一緒に読んでみましょう。 ・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・でも、まあ、大みそか、お正月、百円くらい損してもいいから、一日もはやく現なま掴みたい心理、これは、私たちマゲモノ作家も、君たち、純文学者も変りない様子。よい初春が来るよう。萱野鉄平。」 月日。「先日、お母上様のお言いつけにより、・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・それに、青年の心理の描写がピタリと行っていない。こうも言われた。やはり自分で、すっかりのみ込んでしまわなかった部分が、どこか影が薄いのであった。 巻頭に入れた地図は、足利で生まれ、熊谷、行田、弥勒、羽生、この狭い間にしかがいしてその足跡・・・ 田山花袋 「『田舎教師』について」
・・・これだけの著しい現象の直接間接の効果が日本国民全体の心理と仕事上になんらかの形で現われて来ない訳にはいかないに相違ない。その結果の善悪にかかわらず実に恐るべきことだと思われるのであった。 新宿辺で灯がつき始めたが、駒込へ帰るまで空は明る・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・左右前後の綺羅が頭の中へ反映して、心理学にいわゆる反照聯想を起すためかとも思いますが、全くそうでもないらしいです。あんな場所で周囲の人の顔や様子を見ていると、みんな浮いて見えます。男でも女でもさも得意です。その時ふとこの顔とこの様子から、自・・・ 夏目漱石 「虚子君へ」
・・・対象認識の立場から出立する人は、自己そのものの存在ということも、時間空間の形式に当嵌めて対象的に考える。心理的自己としては、我々の自己も爾考えることができる。しかしそれは考えられた自己であって、考える自己ではない。何人の自己でもあり得る自己・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
出典:青空文庫