・・・ 国鉄整理にからんでおこった下山国鉄総裁の死は、最大限に政府の便宜のために利用された。共産党に関係のある兇悪な犯罪事件のように挑発され、一部の知識人さえその暗示にまきこまれた。ところが他殺でないことがわかったきょうでも、まだ死者に対・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・現代の科学の能力を最大限に発揮して刻々に活動している機械の速力、能率、音響、あらゆるものが、その機械を支配し操って働く者に、精神と肉体の極めて節約整理された敏速さと合理性とを求めており、それが可能な一定の近代工業のリズムを必要としている。近・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・それだのに、問題が直接家庭の内からはみ出した大きいことと思われる場合、特に政府のやることとなると、日本の婦人のこころもちのうちにある、しようがない、は最大限にこれまでの習慣の魔力をあらわして来る。何といっても日本は戦争にまけた国なのだから、・・・ 宮本百合子 「しようがない、だろうか?」
・・・ 人工流産を小さい番号札と最大限二十五―三十留までの金と三日の臥床とにだけ圧搾して考えるСССР的無智を啓蒙するために映画「第三メシチャンスカヤ街の恋」はどの程度に役立ったであろうか。第三メシチャンスカヤ街は労働者町だ。 良人とその・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・ 幼年時代から、両親は彼等の能う最大限の愛と努力と研究とで、徐々に、一箇の人としての基礎を子供等に与えてやる。学校は、広い常識と箇々の性格による専門的傾向を暗示する。そして、或る者は丁年になった時を、或る者は専門教育を終了した時を、新た・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・ 又分らせ様とも仕ないけれ共、漸う育ち掛けて来た感情の最大限の愛情を持って対した私と、宗教的に馴練されたどちらかと云えば重苦しい厳粛な愛情を注いで居た彼との間に行き交うて居た気持は、極く単純ではあったにしろ他の何人の手出しも許されない純・・・ 宮本百合子 「追憶」
・・・ 常識というものは、その時の社会の歴史が可能にしている進歩の最小限を表し、同時にその社会の持っている偏見や保守などに最大限であるものだから。〔一九四八年三月〕 宮本百合子 「“慰みの文学”」
・・・現在の事情の最大限に活動し、革命にプラスする小説評論をかいている作家。そしてそのことによって進歩的読者に社会主義の具体的図絵を与え、党の意義を普及しつつある作家をその事実にたって公正に評価することが他の党員作家にとって有害であるということは・・・ 宮本百合子 「文学について」
・・・其故、上へ上へと積上げた空間のそのまた平面を、最少限の面積で、最大限の能率に活かすアパートメント経営者の、才覚にほかなりません。そういう人間用の巣箱を「わが家」と呼んで、近代社会の何千万人が、せせこましい、律気な、名のない大衆としての生活を・・・ 宮本百合子 「よろこびの挨拶」
・・・ 農民というものは、この長い歴史の間に殆んど変化のない程原始的な耕具と、最大限な肉体的労働とで働き続けて来ていた。徳川の標語は「殺すな、生かすな」という一貫した主張をもっており、その主意によって統治を受けた。やっと生活出来る程度の収入だ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫