四つのつめたい谷川が、カラコン山の氷河から出て、ごうごう白い泡をはいて、プハラの国にはいるのでした。四つの川はプハラの町で集って一つの大きなしずかな川になりました。その川はふだんは水もすきとおり、淵には雲や樹の影もうつるのでしたが、一・・・ 宮沢賢治 「毒もみのすきな署長さん」
・・・お父さんは九つの氷河を持っていらしゃったそうだ。そのころは、ここらは、一面の雪と氷で白熊や雪狐や、いろいろなけものが居たそうだ。お父さんはおれが生れるときなくなられたのだ。」俄かにラクシャンの末子が叫ぶ。「火が燃えている。火が燃えて・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・山の岩石の構造の相違やそこを登攀する技術の相違や雪の質、氷河の性質等に就いてカメラがもっと科学的に活用されていたらばあれだけの長さの内容をもっと豊富にし得たであろう。 ソヴェト同盟のシュミット博士一行の極地探険の記録映画は誠に感銘深いも・・・ 宮本百合子 「イタリー芸術に在る一つの問題」
・・・の中で「氷河」について書いている部分などにも、著者のこの生活の意欲は現れている。氷河が太古に地球の半を包んだように、何千万年かの後にはまた地球をひろく被うようになるかもしれない。しかし、そうなれば、人間は南へ移住することができる、とコフマン・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・ * 面白い本と云えば、羽仁五郎『ミケルアンジェロ』小倉金之助さんの、『家計の数学』山の好きな方に、チンダル『アルプスの旅より』又は『アルプスの氷河』など興味あるでしょうし、女の活動面が新しく展かれてゆく一つ・・・ 宮本百合子 「女性の生活態度」
・・・ ○寒い日当りのよいところがよい ○夜のうちに凍らす ○甲府 ○兀突と結晶体のような山骨 ○山麓のスロープから盆地に向って沢山ある低い人家 ○山嶺から滝なだれに氷河のような雪溪がながれ下って居る。・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・一方、母は、客観的に、冷静に、如何う働くか、彼の心の様を観ようと云うのであるから、其間に、どうしても一種、渡り切れない氷河がある。 私は、母に対して、何より先に、まず愛そう、と云う暖さのないものを歎くと共に、Aに対しては、彼の独善的な、・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・チンダルがアルプスの氷河をかいた作品などは、文学として素人であっても、科学的な態度の一貫した観察と記述の美しさで、独歩な魅力をもっているのである。 文学が科学に向った想像力においては殆ど常にあわれな架空性に陥り、科学がその文学的な想像力・・・ 宮本百合子 「文学のひろがり」
出典:青空文庫