・・・二度目の殺人など、洗面場で手を洗ってその手をふくハンケチの中からピストルの弾を乱発させるという卑怯千万な行為であるにかかわらず、観客の頭にはあらかじめ被殺害者に対する憎悪という魔薬が注射されているから、かえって一種の痛快な感じをいだかせ、こ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・を生じて新型式を濫発せしめたというふうに考えられる。 生物の突然変異を生ずる原因が何であるかについてはそのほうの専門家でない自分のよく知るところでないが、しかし少なくもその一つの因子としては外界の物理的化学的条件が参与していることは疑い・・・ 寺田寅彦 「俳句の型式とその進化」
・・・ある期間だけ継続する週期的現象の群が濫発的に錯綜して起る時がそうである。 これはただ一つの類例に過ぎないが、厄年の場合でも材料の選み方によってはあるいは意外な結果に到着する事がないものだろうか。例えば時代や、季節や、人間の階級や、死因や・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・またの逢瀬の約束やら、これから外の座敷へ行く辛さやら、とにかく寸鉄人を殺すべき片言隻語は、かえって自在に有力に、この忙しい手芸の間に乱発されやすいのである。先生は芝居の桟敷にいる最中といえども、女が折々思出したように顔を斜めに浮かして、丁度・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・小説の単行本が売れないといわれて来てから、出版屋は一昨年あたり、いわゆる豪華版というものの濫発をやった。高くて綺麗な本でなけりゃこの頃は売れません。つまり、本の内容からは何も大して期待しない、金のある人だけがこの頃は本を買い、自分たちの日常・・・ 宮本百合子 「「大人の文学」論の現実性」
・・・で第一、警察官の民主化の実行、第二、地方刑罰条例の濫発への警告――売春等取締条例・公安条例など「国会で決定せず、地方自治体できめしかもムヤミにつくりたがる傾向」を批判していた。一九四八年に人権擁護委員会が置かれてから取扱った件数八八一七件。・・・ 宮本百合子 「修身」
・・・辛辣のようだけれども、本当の心持で日本の対外関係を案じている傍聴人の耳に、そういう彌次の濫発が果して頼もしい代議士連の緊張した態度としての印象を与えただろうか。今日の社会人は、幾十人の大臣を演壇で彌次り倒し得たとしても、現実を合理的に展開さ・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
出典:青空文庫