・・・その光線の鬢は白くまばらなので石膏細工の女かと思われた。この女は初め下向いて眼を塞いで居たが、その眼を少しずつ明けながらその顔を少しずつあげると、段々すさまじい人相になって、遂に髪の逆立った三宝荒神と変ってしもうた。荒神様が消えると耶蘇が出・・・ 正岡子規 「ランプの影」
・・・私は「あした石膏を用意して来よう」とも云いました。けれどもそれよりいちばんいいことはやっぱりその足あとを切り取って、そのまま学校へ持って行って標本にすることでした。どうせまた水が出れば火山灰の層が剥げて、新らしい足あとの出るのはたしかでした・・・ 宮沢賢治 「イギリス海岸」
・・・ その光はまっすぐに四方に発射し、下の方に落ちて来ては、ひっそりした台地の雪を、いちめんまばゆい雪花石膏の板にしました。 二疋の雪狼が、べろべろまっ赤な舌を吐きながら、象の頭のかたちをした、雪丘の上の方をあるいていました。こいつらは・・・ 宮沢賢治 「水仙月の四日」
・・・左官屋といっても、ドイツではただ壁をぬるばかりが仕事ではなくて、煉瓦を積んで家を建てる仕事や、その家々の装飾の浮彫石膏細工をつくるという風な美術的技量のいることも、やはり左官の職分にこめていたものらしく思われる。 カールのそのようなはっ・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・レーニンの石膏像。赤いプラカートは二階バルコンの手すりからも張りまわされている。正面には燃えるようなプラカート「第十回世界無産婦人デー万歳! レーニズムの旗の下に五ヵ年計画を四年で!」棕梠の大鉢が舞台の両端に置かれてある。 ――電化によ・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
・・・して、高等学校時代にこの祥瑞を買ったんだよ、なかなか俺も馬鹿にしたもんじゃなかろう、と笑いながら、柱にかかっている一輪差しを眺めていたことがあり、また、今も古ぼけてよごれながら客間の出窓に飾られている石膏のアポロとヴィナスの胸像も、やっぱり・・・ 宮本百合子 「写真に添えて」
・・・レーニンの石膏像がこの落着いて知識を吸い込んでいるソヴェト同盟の労働者の姿を見下している。 二十人ばかりの音楽サークルでは男女混声合唱の稽古最中だ。さっき入口で会ったギターをかかえた若い男が指導者で、「ホラ、そこをもっと強く! つよ・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
・・・本をよみながら一寸首をあげて見るとわきの木ばこの上にのっけてある石膏の娘の半身像のかおが影の工合で妙にいやらしく見えたんで手をのばして後むきにしてしまった。それからインクスタンドの下の方にゴトゴトになってたまって居るのでペンが重くってしよう・・・ 宮本百合子 「日記」
・・・実際的には石や石膏をいじるより、例えば「文化と休みの公園」の広場に飾られてるような大骨板張の大労働者像、一九三〇年のメーデーに赤い広場に飾られた大群像、または示威運動の張りものみたいな非写実的な、応用美術の方が手に入ってる。日本で労働運動は・・・ 宮本百合子 「プロレタリア美術展を観る」
・・・画学生マリアの服装は質素になった。石膏模型、骨の見本、マリアは僅かの間にジュリアンのアトリエで一番技術をもったブレスロオという娘を唯一の競争相手とするところまで突進した。マリアの異常な才能は輝き出した。それにしても、マリアのいそぎよう! 彼・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
出典:青空文庫