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・・・詰の談判、さて文壇からは引続き歓楽に哀傷に、放蕩に追憶と、身に引受けた看板の瑕に等しき悪名が、今はもっけの幸に、高等遊民不良少年をお顧客の文芸雑誌で飯を喰う売文の奴とまで成り下ってしまったが、さすがに筋目正しい血筋の昔を忘れぬためか、あるい・・・
永井荷風
「妾宅」
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・・・さながら碁盤の目のように一つの石、人間が動けば必ずどこかの筋目に入らないと安心しない。四角のどの目にか入れば入ったという事実そのものがさも意義あることらしく、咳払いをする。 極言すれば、私共の生存が、時で計られるのを全然忘れる必要がある・・・
宮本百合子
「われを省みる」