・・・あまねく人の知るところにして、いずれも皆人生奇異を好みて明識を失うの事実を証するに足るべし。 ゆえに、子女の養育に注意する人は、そのようやく長ずるにしたがって次第に世間の人事にあたらしむるの要用なるを知り、あるいは飲酒といい演劇といい、・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・日本の文学は源平以後地に墜ちてまた振わず、ほとんど消滅し尽せる際に当って芭蕉が俳句において美を発揮し、消極的の半面を開きたるは彼が非凡の才識あるを証するに足る。しかもその非凡の才識も積極的美の半面はこれを開くに及ばずして逝きぬ。けだし天は俳・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・然るにここに幸なるは、一事の我趣味の猶依然たることを証するに足るものがある。それは何であるか。予は我読書癖の旧に依るがために、欧羅巴の新しい作と評とを読んで居る。予は近くは独逸のゲルハルト・ハウプトマンの沈鐘を読んだ。そして予はこの好処の我・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
出典:青空文庫