・・・マグダラのマリアは、迫害されながら、迫害するものの欲望のみたしてとして生きる売笑婦であった。ローマの権力に対して譲歩しない批判者であった大工の息子のイエスは、彼の意見に同感し、行動をともにするようになった漁夫のペテロそのほかの素朴な人たちと・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・ ナチスの迫害のうちにすごした晩年の十年間が、ケーテにとってどのような時々刻々であったかということは、およそ想像される。それでも彼女はくずおれず、しっかりと目をあいて恐ろしい老齢の期節をほこりたかく生きとおした。ナチスの降服した年の五月・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・石原氏がその学説の解説者として自身を示したアインシュタインのナチから受けた迫害などを実際に見て、果して石原氏の感想はどうであろう。アインシュタイン自身が自分の心持からレーニングラードのアカデミーで働くのなどはいやだというのと、ソ連がもし希望・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・ その日のために、ロシアのプロレタリアートと農民は、監獄、銃殺、流刑と、あらゆる迫害を徹して闘い抜き、遂に一九一七年十一月七日、働く者の国、プロレタリア独裁のソヴェト政権を確立したのです。 この地球はじめての人間らしい憲法がきめられ・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の婦人と選挙」
・・・ いかほどの迫害を受けても、ただ、神の恩寵のみを感じて、想像も及ばない忍従と愛とのうちに神を見、神とともに語った聖者。 または、悲壮な先駆者として、彼の生命を自然律のあらゆる必然のうちに投じて、天と地との一切のものを知り、そして愛し・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・社会は無政府主義者を一纏めに迫害しているから、こっちも社会を一纏めに敵にする。無辜の犠牲とはなんだ、社会に生きているものに、誰一人労働者の膏血を絞って、旨い物を食ったり、温い布団の上に寝たりしていないものはない。どこへ投げたって好いと云うの・・・ 森鴎外 「食堂」
・・・そしてある機会に起って迫害を加える。ただ口実だけが国により時代によって変る。危険なる洋書もその口実に過ぎないのであった。 * * * マラバア・ヒルの沈黙の塔の上で、鴉のうたげ・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・ 無政府主義と、それといっしょに芽ざした社会主義との排斥をするために、個人主義という漠然たる名をつけて、芸術に迫害を加えるのは、国家のために惜しむべきことである。 学問の自由研究と芸術の自由発展とを妨げる国は栄えるはずがない。・・・ 森鴎外 「文芸の主義」
・・・父王の千人の妃たちの憎悪と迫害がこの新王の美しい妃に集まり、妃を孤立させるために相人を利用して新王を遠い地方へ送り出してしまう。守り手のない妃のところへは武士をさし向け、妃を山中に拉して首を切らせる。そうして、ここにも首なき母親の哺乳が語ら・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・resUpon another's bread, ― how steep his pathWho treads up and down another's stairs.とは烈しき迫害に逢うて霊が思わずもあげたる悲痛の叫・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫