・・・ 私も、毎日門外まで一同を連出すんだが、七日前にも二日こっちも、ついぞ、そんな娘を見掛けた事はない。しかもお前、その娘が、ちらちらと白い指でめんない千鳥をするように、手招きで引着けるから、うっかり列を抜けて、その傍へ寄ったそうよ。それを・・・ 泉鏡花 「朱日記」
・・・ 翌晩も、また翌晩も、連夜の事できっと時刻を違えず、その緑青で鋳出したような、蒼い女が遣って参り、例の孤家へ連れ出すのだそうでありますが、口頭ばかりで思い切らない、不埒な奴、引摺りな阿魔めと、果は憤りを発して打ち打擲を続けるのだそうでご・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・氏を浪漫的な弱さから連れ出すものは、おそらくこれらの方法のほかにあるまい。 いずれにしても小林氏が自己の直接な感情を画面に投げ出そうとしているのは感情のない画の多い院展日本画にとっては心強い。氏が『竹取物語』のごとき邪路に入らずに、ます・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
出典:青空文庫