脳のしくみとはたらき
脳の重さは体重の約2%。成人で1200~1600gにもなります。全身からのあらゆる情報を受け、心身をコントロールするのが脳の役目です。 脳は、大脳、小脳、脳幹という3つの部位から成り立っています。そのなかでもっとも大きいのは、名前のとおり大脳で、脳全体の約8割を占めています。 大脳の表面は大脳皮質、内部は脳髄質という構造になっています。大脳には、ニューロンと呼ばれる多くの神経細胞があり、ここに全身からさまざまな情報が送られてきます。 大脳の下部、後頭部にある楕円形をした器官が小脳、大脳と小脳を除いた部分が脳幹です。 脳幹には「運動神経」「感覚神経」の神経線維が通り、中脳、橋、延髄の3つの器官で構成されています。 生命維持の中枢器官として全身のあらゆる情報をコントロールする脳は、硬い頭蓋骨とその内側にある3層の膜(髄膜)により、外部などからの刺激で損傷を受けないよう、しっかりと守られています。 髄膜の層は、外側(頭蓋骨の内側)の「硬膜」、中層にある「くも膜」、脳を覆う軟らかい膜「軟膜」で形成されています。さらに、くも膜と軟膜の間には"くも膜下腔"と呼ばれる部位があり、外部衝撃を吸収したり、脳への栄養を補給したりする"髄液"で満たされています。 大脳には、2つの異なったはたらきをする部位-新皮質と旧・古皮質があります。これらは、胎児から成人になるまで、旧皮質→古皮質→新皮質の順に成長していきます。 新皮質は、運動や感覚機能のほか、知的活動(理論的思考、判断力、言語能力)と複雑な感情(喜び、悲しみ)を営む部位で、霊長類ではよく発達しています。 旧・古皮質は、海馬、帯状回廊などが大脳辺縁系を構成し、本能的な欲求(食欲、性欲)、原始的感情(恐怖、怒り)、記憶の形成を営みます。
排尿のしくみ
膀胱は、腎臓から送られてきた尿を一時的に蓄えておく器官ですが、蓄えた尿を排泄する役目も担っています。 成人の膀胱は、300~500mlの尿を蓄えることができます。しかし、通常は200~300mlほど尿がたまると、尿意を感じます。 膀胱に尿がたまると、その情報は知覚神経や脊髄を通って大脳へ伝えられます。すると、大脳では排尿の指令が下り、膀胱の壁の平滑筋が反射的に収縮して膀胱の内圧が高まります。また、自分の意思とは無関係に働く内括約筋も自然にゆるみ、排尿の準備が整います。これを「排尿反射」といいます。 しかし、これだけで排尿がおこるわけではありません。尿意をもよおしてもトイレが見つからない場合などは、排尿をがまんしなければなりません。がまんを可能にしているのが、外括約筋です。 外括約筋は意思によってコントロールできる横紋筋です。この外括約筋を自力でゆるめることで、尿はからだの外へ排泄されます。 外括約筋はふだんは閉じたままになっているため、睡眠中などに膀胱がいっぱいになっても、勝手に排尿されることはありません。ただ、膀胱の壁や内括約筋の運動は、反射的に行われます。その反射中枢は脊髄の下部に存在しており、そこに出入りする神経が損傷されると、尿がもれ出す「尿失禁」になってしまいます。 また、乳幼児は脊髄の仙髄という部分での反射だけで排尿がおこりますが、脳の排尿中枢が発達するにしたがって、意思でこの反射をコントロールできるようになります。
平衡感覚のシステム
体の平衡は目・耳・手足・脳のネットワークによってつかさどられていますが、なかでも重要な情報を提供しているのが内耳です。 内耳は聴覚をつかさどる蝸牛管と、平衡感覚をつかさどる三半規管と耳石器の三つの器官から構成されています。ちなみに、三半規管と耳石器を合わせて「前庭器官」と呼んでいます。前庭器官からは平衡感覚を伝える前庭神経が出ていて、脳幹へとつながっています。 三半規管は、外側半規管、前半規管、後半規管の3つの半規管からなっています。外側半規管は前後の水平回転、前半規管と後半規管は直交する2軸の垂直回転の動きや速さを感知しています。 頭を動かすと、三半規管のなかの内リンパに流れが生じ、この流れを感覚細胞がとらえ、頭が動いた方向や速さを認識するしくみです。 また、耳石器は水平・垂直方向の傾きと動く速さを感知しています。 耳石器のなかには卵形のう、球形のうと呼ばれる2つの器があり、それぞれには炭酸カルシウムからできた小さな石(耳石)が詰まっています。 頭を動かして、重力の方向が変化すると、耳石が動き、配置にズレが生じますが、このズレを感覚細胞がとらえ、からだの傾きや動きを認識するしくみになっています。
ホルモンのはたらきと役割
からだの各器官の活動は、「神経系」と「内分泌系」によって制御されています。 神経系とは、神経細胞と神経線維からなるネットワークで、脳とからだの各部位を結び、情報と指令の受け渡しをしています。 一方、内分泌系とは、からだのある場所で分泌(生産)されたホルモンが血液などを介して全身に運ばれ、各臓器や器官のはたらきを調節するものです。 ホルモンを分泌する器官を「内分泌腺」といいます。さまざまな臓器や器官の機能は、脳の中枢神経によって統合され、内分泌腺から分泌されるホルモンによって、適度な状態に保たれているのです。 ホルモンを分泌している内分泌腺には、脳にある「視床下部」「下垂体」「松果体」、頸部にある「甲状腺」とその後ろにある「副甲状腺」、胸部にある「心臓」、腹部にある「消化管」、「副腎」、「腎臓」、「すい臓」、そして男性では「精巣」、女性では「卵巣」と「胎盤」があります。また、これらの内分泌腺以外にも、肥満細胞から産生されるホルモンもあります。 体内には前述のようにホルモンを分泌するさまざまな内分泌腺がありますが、ホルモン分泌の司令塔としてはたらいているのが、視床下部と下垂体です。 まず、視床下部は、脳からの指令やからだからの情報を受けてホルモンを分泌します。 次に、視床下部から分泌されたホルモンを受けとった下垂体は、からだが必要としているホルモンを末梢の内分泌腺に分泌させるための指令となるホルモンを分泌します。 そして、副腎、甲状腺などの末梢の内分泌腺が、送られてきたホルモンに従って自らのホルモンを分泌することで、からだの生命バランスが保たれているのです。
目のしくみ
目は光によって物の色、形や遠近、動きなどを感じる感覚器です。 眼球の黒目を角膜、白目を強膜といいます。角膜の後方には眼球内に光を入れる瞳孔と、入る光の量を調整する虹彩があります。 瞳孔から入ってきた光は、水晶体とゼリー状の物質でできた硝子体を通って、いちばん奥の網膜に達します。網膜では映し出された明暗・形・色を視細胞が感知し、視神経を通して大脳に伝達します。 また、網膜の周囲には、脈絡膜、強膜など複数の膜があり、眼球を保護したり、栄養や酸素を与える役目を果たしています。 眼球は、6つの外眼筋という筋肉のはたらきにより、見たいと思う方向へ視線を制御しています。 視覚をつかさどり、人間が外界からキャッチする情報全体の約80%を処理する目は、感覚器のなかでもっとも重要な役目を担っています。そのため、目の周りには、眼球を保護するためのまぶた(眼瞼)や、まつげがあります。 眼球の表面を保護するまぶたは、数秒間に1回程度まばたきをして上眼瞼の裏側にある涙腺から分泌される涙で眼球の表面をうるおし、ほこりなどを洗い流します。 さらに、まつげも眼球に異物が入らないようガードし、根元のマイボーム腺(まぶたの裏にある皮脂腺)から油分を分泌して、角膜の表面を乾燥から守っています。
免疫機能のはたらき
免疫とは、からだに侵入したウイルスや細菌など、病原体を血液中から排除するために働く、体内のセキュリティシステムです。 このシステムを機能させるのは、リンパ球のT細胞、B細胞、NK細胞(ナチュラルキラー細胞)、マクロファージ、顆粒球など白血球の仲間たちです。 体内で異物を発見すると、最初にマクロファージや顆粒球の好中球が異物を食べ、NK細胞が異物を破壊します。これが「自然免疫」という初期の防御システムです。 自然免疫で対処しきれない場合は、さらにほかのリンパ球が対応をします。このリンパ球による異物への反応を「獲得免疫」といい、"体液性免疫"と"細胞性免疫"の2種類に分けられます。 体液性免疫は、異物(抗原)が侵入すると、まずマクロファージが異物を捕え、抗原の情報を認識してヘルパーT細胞に伝えます。同時に、化学物質を放出してB細胞を形質細胞に増殖させて大量の抗体をつくり出し、抗原を一つ一つ抗体で取り囲み、マクロファージが飲み込む―というものです。 細胞性免疫では、T細胞とマクロファージが抗原を直接攻撃します。マクロファージは侵入してきた抗原の情報を認識し、ヘルパーT細胞に伝えます。その情報からヘルパーT細胞は、サイトカインを分泌して、キラーT細胞や、マクロファージなどを活性化させ、抗原を破壊して貪食させます。 免疫にかかわる細胞の中心となるのは、白血球の仲間、リンパ球です。 リンパ球には、胸腺(心臓の上にかぶさり、両肺の間の上部に位置する臓器)を経由して分化するT細胞と、胸腺を経由しないB細胞があります。 T細胞は、ウイルスや、がんを攻撃したり、生理活性物質(ホルモン)を生み出すはたらきをします。 T細胞は胸腺で分化し、成熟してサプレッサーT細胞、ヘルパーT細胞、キラーT細胞に分かれます。B細胞は、ヘルパーT細胞の指令により、抗体をつくるために分裂をしながら増殖して、異物(抗原)を攻撃します。 そのほか、自己判断で異物やがん化した細胞を攻撃、処理するNK細胞、病原菌を食べ、リゾチームで溶かして消す好中球など、免疫系にはさまざまな種類と役割の違う細胞があり、それぞれの役割を果たしながら連携して、異物や病原菌からからだを守っているのです。
ものを見るメカニズム
人間がものを見るしくみは、カメラを想像すると理解しやすいかもしれません。 カメラは、レンズを通過した光が屈折し、この屈折した光が画像素子(フイルム)上に集まって、被写体を映し出します。 人の眼には「黒目」と呼ばれる角膜があります。角膜は肉眼では黒く見えますが、下の虹彩が透けて見えているだけで、実は透明な組織です。 この角膜と、角膜の後ろにある水晶体という透明な組織は、カメラでいうところのレンズの役割を果しています。 角膜と水晶体を通過した光(視覚情報)は屈折し、さらに硝子体という透明な組織を通り、網膜に象を結びます。 網膜は画像素子(フイルム)のような役割を果たす組織です。 網膜に光が達すると明暗・形・色が感知され、その情報が視神経を経由して脳に伝わります。そして、私たちは"見る"という行為を通じて、外界を認識するわけです。 屈折率(屈折の角度)が正常ならば、光は網膜でピントが合って、ぴったりと像を結びます。これを「正視」といいます。しかし、屈折率が強すぎたり、弱すぎたりすると、網膜の手前や後方で像を結ぶため、ピントが合いません。このような「正視」以外の屈折状態が「屈折異常」いいます。 屈折異常には、「近視」「遠視」「乱視」があります。 近視の多くは、眼球が前後に長くなる「眼軸長」や、光の屈折力が強すぎることによっておこります。網膜の手前でピントが合うため、近くのものはよく見えますが、遠くのものがぼやけてしまいます。 遠視は近視とは逆に、眼球の眼軸が前後に短くなることや、光の屈折力が弱すぎるためにおこります。網膜より後方でピントが合うため、遠いものも、近いものも、はっきり見えにくくなります。 乱視は眼球の表面にゆがみがあり、光が屈折するときにいろいろな方向に行ってしまうためにおこります。目に入ってきた光が、一点で像を結ばないので網膜上にはっきりとした像ができません。軽度ではあまり自覚症状がありませんが、ひどくなると、遠くのものも近くのものもぼやけて見え、片目で見るとものが2重、3重にずれて見えることもあります。 網膜には色を識別する細胞である「錐体」と、光の明暗を感知する「杆体」があります。 錐体の細胞は、赤、青、緑を感じる3種類あり、この細胞が感知する光の割合によって視神経から大脳への信号が送られます。 この情報を元に大脳で色が認識されますが、錐体の機能に異常がある場合、色覚異常といって、色を正しく識別できない状態になることがあります。