出典:青空文庫
・・・災難を予知したり、あるいはいつ災難が来てもいいように防備のできているような種類の人間だけが災難を生き残り、そういう「ノア」の子孫だけが繁殖すれば知恵の動物としての人間の品質はいやでもだんだん高まって行く一方であろう。こういう意味で災難は優良・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・そこでノアルで細筆のフランス文字、ブルバールデトセトラ。 四 脚は一八〇プロセントくらいに、眼と眼はうんとくっつけるか、思い切り開いて、さてこの腕をどうやろう。寛永寺の鴉より近い処にビッシェール、ロート。顔の・・・ 寺田寅彦 「二科狂想行進曲」
・・・僕はもう今すぐでもお雷さんにつぶされて、または噴火を足もとから引っぱり出して、またはいさぎよく風に倒されて、またはノアの洪水をひっかぶって、死んでしまおうと言うんですよ。それだのに、あなたはちっとも同情してくださらないんですか」「あら、・・・ 宮沢賢治 「シグナルとシグナレス」
・・・ 叔父の寝台の傍で聞いた宗教的な種々の話は実に沢山であった。 アダム、イブの話。 ノアの箱舟。 クリストの子供の時の話。 Babel の塔。 其の他種々の話を、彼は我々が日常の出来事に対して云う通りな静かな事実を有り・・・ 宮本百合子 「追憶」
・・・「ここは、まるでノアの箱舟ね」 ひろ子が、笑って云った。「何でも一応あるのね、あんなに大きい髯まであったわ。気がついたでしょう?」「ほんと」 眠って軟くまるまる純吉をゆりあげながら牧子も笑った。そして、二人は明るいとき通・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・ニューヨークのあの摩天楼の櫛比した上に巨大な破壊力がおちかかる時の光景を想像すれば、どんな蒙昧な市民も、それが、ノア洪水より、惨な潰滅の姿であることを理解するだろう。もし、アメリカの市民感情に戦争挑発にのせられる何かの可能があるとすれば、そ・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」