出典:青空文庫
「僕は、本月本日を以て目出たく死去仕候」という死亡の自家広告を出したのは斎藤緑雨が一生のお別れの皮肉というよりも江戸ッ子作者の最後のシャレの吐きじまいをしたので、化政度戯作文学のラスト・スパークである。緑雨以後真の江戸ッ子文学は絶えてし・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・ 唖々子は弱冠の頃式亭三馬の作と斎藤緑雨の文とを愛読し、他日二家にも劣らざる諷刺家たらんことを期していた人で、他人の文を見てその病弊を指してきするには頗る妙を得ていた。一葉女史の『たけくらべ』には「ぞかし」という語が幾個あるかと数え出し・・・ 永井荷風 「十日の菊」
・・・いっそ、明治が生んだ江戸追慕の詩人斎藤緑雨の如く滅びてしまいたいような気がした。 ああ、しかし、自分は遂に帰らねばなるまい。それが自分の運命だ、河を隔て堀割を越え坂を上って遠く行く、大久保の森のかげ、自分の書斎の机にはワグナアの画像の下・・・ 永井荷風 「深川の唄」