・・・ ――女くされ、おかしじゃよ。 ――タキは、ええべせえ。 ――そうだべがな。 そうした案配こ、とうとうタキこと貰るようにきまったずおん。 ――右りのはずれの雀こ欲うし。 て、歌ったもんだずおん。 タキの方図では、・・・ 太宰治 「雀こ」
・・・ままに、くちばし突出、身の丈ひょろひょろと六尺にちかき、かたち老いたる童子、実は、れいの高い高いの立葵の精は、この満場の拍手、叫喚の怒濤を、目に見、耳に聞き、この奇現象、すべて彼が道化役者そのままの、おかしの風貌ゆえとも気づかず、ぶくぶくの・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・これに反して傘蛇に襲われた人間の芝居がかりの表情はわざとらしくておかしく、この映画の中でいちばんまずい場面である。わが国の映画界のえらいスター諸君もちとあの猿や熊の顔を見学し研究するといい。 七 漫画の犬 このごろ見・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・第二ページはおかあさんの留守に幼少な娘のリエナが禁を犯してペチカのふたを明け、はね出した火がそれからそれと燃え移って火事になる光景、第三ページは近所が騒ぎだし、家財を持ち出す場面、さすがにサモワールを持ち出すのを忘れていない。第四ページは消・・・ 寺田寅彦 「火事教育」
・・・ 旧時代のハイカラ岸田吟香の洋品店へ、Sちゃんが象印の歯みがきを買いに行ったら、どう聞き違えたものか、おかしなゴム製の袋を小僧がにやにやしながら持ち出したと言って、ひどくおかしがって話したことを思い出す。Sは口ごもって、ひどくはにかんだ・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・ 罪を犯した彼等は等しく耳を欹てた。其一人は頻りに帯のあたりを探って居る。「何だ」「どうした」 他のものは又等しく折返して聞いた。「銭入どうかしっちゃった」 其の声はいたく慌てて居た。「あれ落っことしちゃ大変だ、・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・もっとも滑稽物や何かで帽子を飛ばして町内中逐かけて行くと云ったような仕草は、ただそのままのおかしみで子供だって見ていさえすれば分りますから質問の出る訳もありませんが、人情物、芝居がかった続き物になると時々聞かれます。その問ははなはだ簡単でた・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・頭まで四角に感じられたから今考えるとおかしい。その当時「その面影」は読んでいなかったけれども、あんな艶っぽい小説を書く人として自然が製作した人間とは、とても受取れなかった。魁偉というと少し大袈裟で悪いが、いずれかというと、それに近い方で、と・・・ 夏目漱石 「長谷川君と余」
・・・さて自分がその局に当ってやって見ると、かえって自分の見縊った先任者よりも烈しい過失を犯しかねないのだから、その時その場合に臨むと本来の弱点だらけの自己が遠慮なく露出されて、自然主義でどこまでも押して行かなければやりきれないのであります。だか・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・と、吉里は自分ながらおかしくなったらしくにっこりした。「それ御覧。それだもの。平田が談話すことが出来るものか。お前さんの性質も、私はよく知ッている。それだから、お前さんが得心した上で、平田を故郷へ出発せたいと、こうして平田を引ッ張ッて来・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
出典:青空文庫