・・・僕はパンをかじりながら、ちょっと腕時計をのぞいてみました。時刻はもう一時二十分過ぎです。が、それよりも驚いたのは何か気味の悪い顔が一つ、円い腕時計の硝子の上へちらりと影を落としたことです。僕は驚いてふり返りました。すると、――僕が河童という・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・僕はパンをかじりながら、ちょっと腕時計をのぞいてみました。時刻はもう一時二十分過ぎです。が、それよりも驚いたのは何か気味の悪い顔が一つ、円い腕時計の硝子の上へちらりと影を落としたことです。僕は驚いてふり返りました。すると、――僕が河童という・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・「大いなるパンは死にました。いや、パンもいつかはまたよみ返るかも知れません。しかし我々はこの通り、未だに生きているのです。」 オルガンティノは珍しそうに、老人の顔へ横眼を使った。「お前さんはパンを知っているのですか?」「何、・・・ 芥川竜之介 「神神の微笑」
・・・「大いなるパンは死にました。いや、パンもいつかはまたよみ返るかも知れません。しかし我々はこの通り、未だに生きているのです。」 オルガンティノは珍しそうに、老人の顔へ横眼を使った。「お前さんはパンを知っているのですか?」「何、・・・ 芥川竜之介 「神神の微笑」
・・・ しかしながら、もし私がほかに何の仕事もできない人間で、諸君に依頼しなければ、今日今日を食っていけないようでしたら、現在のような仕組みの世の中では、あるいは非を知りながらも諸君に依頼して、パンを食うような道に従って生きようとしたかもしれ・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・ しかしながら、もし私がほかに何の仕事もできない人間で、諸君に依頼しなければ、今日今日を食っていけないようでしたら、現在のような仕組みの世の中では、あるいは非を知りながらも諸君に依頼して、パンを食うような道に従って生きようとしたかもしれ・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・破壁残軒の下に生を享けてパンを咬み水を飲む身も天ならずや。 馬鹿め、しっかり修行しろ、というのであった。これもまた信じている先生の言葉であったから、心機立ちどころに一転することが出来た。今日といえども想うて当時の事に到るごとに、心自・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・破壁残軒の下に生を享けてパンを咬み水を飲む身も天ならずや。 馬鹿め、しっかり修行しろ、というのであった。これもまた信じている先生の言葉であったから、心機立ちどころに一転することが出来た。今日といえども想うて当時の事に到るごとに、心自・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・ 泰西の諸国にて、その公園に群る雀は、パンに馴れて、人の掌にも帽子にも遊ぶと聞く。 何故に、わが背戸の雀は、見馴れない花の色をさえ恐るるのであろう。実に花なればこそ、些とでも変った人間の顔には、渠らは大なる用心をしなければならない。・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・ 泰西の諸国にて、その公園に群る雀は、パンに馴れて、人の掌にも帽子にも遊ぶと聞く。 何故に、わが背戸の雀は、見馴れない花の色をさえ恐るるのであろう。実に花なればこそ、些とでも変った人間の顔には、渠らは大なる用心をしなければならない。・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
出典:青空文庫