・・・春の頃は空の植木鉢だの培養土だのがしかし呑気に雑然ころがっていた古風な大納屋が、今見れば米俵が軋む程積みあげられた貯蔵所になっていて、そこから若い棕梠の葉を折りしいてトロッコのレールが敷かれている。台の下に四輪車のついたものが精米をやってい・・・ 宮本百合子 「この初冬」
・・・左翼の運動は日本の資本主義社会の特殊な人工培養性に従って全く独得な歴史を持つものであるが、プロレタリア文学運動の消長もこの全体的な特徴に影響を受けている。客観的情勢が満州事件と同時に急転した。このことと団体に被った被害の甚大であったこと、他・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・民主日本の発展の途上に、一種の反対勢力として権謀的に培養されている軍国主義の暗いうごめきを、婦人の心の正直さは明瞭に拒んで行かなければならない。〔一九四八年一月〕 宮本百合子 「砂糖・健忘症」
・・・の顔』についての、外人記者との対談で、「武士道は日本精神の精髄で、ナチス精神との間には多分の近似性がある」と、心ある全国民を戦慄させる断言をしている。ヨーロッパ、アメリカの政治家たちは、「反共戦線」の培養がどんな流血と犠牲と破壊とをよびおこ・・・ 宮本百合子 「矛盾とその害毒」
・・・七 教養は培養である。それが有効であるためには、まず生活の大地に食い入ろうとする根がなくてはならぬ。 人々はあまりに根の本能を忘れていはしないか。いかに貴い肥料が加えられても、それを吸収する力のない所では何の役にも立たな・・・ 和辻哲郎 「樹の根」
・・・で、青春の時期に最も努むべきことは、日常生活に自然に存在しているのでないいろいろな刺激を自分に与えて、内に萌えいでた精神的な芽を培養しなくてはならない、という所に集まって来るのです。 これがいわゆる「一般教養」の意味です。数千年来人類が・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
出典:青空文庫