・・・尻からげをして、帯には肥料問屋のシルシを染めこんだ手拭をばさげて居る。どんなことを喋って居るか、それは、ちょっと諸君が傍へ近よって耳を傾けても分らんかもしれん。──小豆島の言葉をそのまままる出しに使っとる。彼に云わせりゃ、なんにも意識して使・・・ 黒島伝治 「自画像」
・・・製鉄所も、化学工場も、肥料会社も――そして、そこに働いている労働者が――戦争のために使われる。化学工場からは、毒瓦斯を、肥料工場からは――肥料会社は、肥料を高い値で百姓に売りつけるが、必要に応じて、そこから火薬が出来るようになっている。無線・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・手拭には、どっかの村の肥料問屋のシルシが染めこまれてある。しかし、それはシベリヤで楽しむ内地の匂いにすぎなかった。戦友は、這入ってきた看護長を見ると、いきなり、その慰問袋から興味をなげ棄てた。「看護長殿、福地、なんぼ恩給がつきます?」・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・西袋も今はその辺に肥料会社などの建物が見えるようになり、川の流れのさまも土地の様子も大に変化したが、その頃はあたりに何があるでもない江戸がたの一曲湾なのであった。中川は四十九曲りといわれるほど蜿蜒屈曲して流れる川で、西袋は丁度西の方、即ち江・・・ 幸田露伴 「蘆声」
・・・地租、肥料、籾などの代を差し引き、労力も二人で持ち寄れば、収穫も二人で分けさせることにしてあった。 いつのまにか私たちの家の狭い庭には、薔薇が最初の黄色い蕾をつけた。馬酔木もさかんな香気を放つようになった。この花が庭に咲くようになっ・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・ポルジイはこれを承って、乱暴にも、「それでは肥料車の積載の修行をするのですな」と云った。その二は世界を一周して来いと云うのである。半年程留守を明けて、変った事物を見聞して来るうちには、ドリスを忘れるだろうと云うのである。勿論漫遊だって、身分・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・もしもこれらのおとぎ話を、尻の曲がったごうなの殻にでも詰め込んで丸のみにさせられていたのであったら、とうの昔に体外に排泄されてどこかよその畑の肥料にでもなっていたことであろうと思う。・・・ 寺田寅彦 「さるかに合戦と桃太郎」
・・・折から畑に入るゝ肥料なるべし異様のかおり鼻を突きて静岡にて求めし弁当開ける人の胸悪くせしも可笑しかりける。沼津を過ぐれども雨雲ふさがりて富士も見えず。 御殿場にて乗客更に増したる窮屈さ、こうなれば日の照らぬがせめてもの仕合せなり。小山。・・・ 寺田寅彦 「東上記」
・・・土の性質、肥料や水の供給、それから光線や温度の関係で同じ種から貴族と平民が生まれるのであった。花の貴族と平民とは物を言わないから争闘はない。こんな事を考えたりした。 次にはO君から浅い大きな鉢にいろいろの草花を寄せ植えにしたのを届けてく・・・ 寺田寅彦 「病室の花」
一 善ニョムさんは、息子達夫婦が、肥料を馬の背につけて野良へ出ていってしまう間、尻骨の痛い寝床の中で、眼を瞑って我慢していた。「じゃとっさん、夕方になったら馬ハミだけこさいといてくんなさろ、無理しておきたら・・・ 徳永直 「麦の芽」
出典:青空文庫