出典:青空文庫
・・・手拭を姉さんかぶりにした若い農婦が、マンノーをとって争議に参加するばかりでない。女工さんの自主的なストライキが勇敢に闘われるばかりではない。今や、プロレタリアート・農民の婦人は出産の床の中に、八百屋で買う一本の葱の中にまで、自身の熱い階級闘・・・ 宮本百合子 「国際無産婦人デーに際して」
・・・ワン・マン彼自身が国際茶坊主頭である。茶坊主政治は、護符をいただいては、それを一枚一枚とポツダム宣言の上に貼りつけ、憲法の本質を封じ、人権憲章はただの文章ででもあるかのように、屈従の鳥居を次から次へ建てつらねた。 おととしの十二月二十日・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ 道徳再武装運動は、かつてオックスフォード運動とよばれ、ブックマン博士という人物が中心である。元来は一つの宗教運動で、公衆の前で自分の罪を告白し悔い改めることを眼目としたが、告白の内容は性的なものが多く、オックスフォード大学からの抗議で・・・ 宮本百合子 「再武装するのはなにか」
あるところで、トーマス・マンの研究をしている人にあった。そのとき、マンの作品の或るものは、実に観念的で、わかりにくくて始末がわるいものだけれども、一貫して、マンの作家としての態度に感服しているところがある。それは、トーマス・・・ 宮本百合子 「作品と生活のこと」
・・・ パウマン区何々通五八番地、室十五号に住んでいる某々工場の職工イワン・ボルコフは、一週間に少くとも三遍は酔ぱらって夜中に帰って来る。彼は室の戸を先ずうんと叩いて近所を起こす。次に女房をなぐって、騒動で近所の子供の目まで覚させる。イワ・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・私たち日本の女性も、その名と作品とはいくらか知っている文学者トーマス・マンが、ドイツからアメリカへ亡命したのはなぜであったろうか。アインシュタインがアメリカへゆき、ジョリオ・キューリー夫妻がパリーのキューリー研究所をすててスイスへ逃れたのは・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・書斎の鴎外ではなくて、おそらくは軍医総監としての鴎外が、襟の高い軍服をきっちりつけた胸をはり、マントウの肩を片方はずした欧州貴族風の颯爽さで彫られている。立派な鴎外には相異なく眺められた。けれども、私はやっぱりそういう堂々さの面でだけ不動化・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・〔欄外に〕エリカマンのペッパーミルのフーシは疑問とされているわけです獅子文六 そして、アメリカ女優に接吻をおそわる日本人は おかしい辰野 悲劇と喜劇との境は きわどいもので。アメリカは朝鮮でも・・・ 宮本百合子 「東大での話の原稿」
・・・吉野作造がデモクラシーを唱え、文学ではホイットマンの「草の葉」などが注目されはじめていた時代であった。夏目漱石という一人のすぐれた明治の文学者は、経済事情も文化の条件もおくれている日本の現実のなかに生きて、日本の社会と自身とのうちにある封建・・・ 宮本百合子 「日本の青春」
・・・ ここはいつもリンツマンの檀那の通る所である。リンツマンの檀那と云うのは鞣皮製造所の会計主任で、毎週土曜日には職人にやる給料を持ってここを通るのである。 この檀那に一本お見舞申して、金を捲き上げようと云う料簡で、ツァウォツキイは鉄道・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」